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古いモノ好きの日常

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日常の他愛もない出来事、考え事などを綴ったものをまとめています。過去の記事もおりおり更新しています。
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記事一覧

大正恋愛事件-蜉蝣のような果敢なさ-

『女性』四月特別號(昭和二年)にて特集された「大正年間の七大戀愛事件」。題のごとく七件の恋愛事件が紹介され、現在でも広く知られている話が取り上げられています。人は噂の奴隷と言いますように、センセーショナルな内容に多くの人が関心を寄せたことでしょう。 七大恋愛事件の中で特に哀れなのは、有島武郎と波多野秋子の心中事件です。現在もこの事件を取り上げている記事は数多くあるので、ほとんどの方が知っていると思います。なので現在の考察ではなく、昭和二年からほんの数年前に起きた事件を『女性』

昔の物売りの生活

古本屋で見つけた『甦る昭和ロマン』(昭和51年)。 昭和レトロの特集本かと思い手にしてみると、戦前昭和を取り上げた内容でした。すでに本の発行から半世紀近く経っており、昭和51年が昭和ロマン時代になっているような気がします。 本の中で、昔懐かしい「街の物売り」が紹介されていました。玄米パン屋、ゆで卵売り、金魚売り、下駄の歯入れ屋、羅宇屋、拡大器売り、今では聞き慣れない生業ばかりで、新鮮ですらあります。どうやら東京の町は、昔にさかのぼるほど、行商や露店という屋外の商人が多かったと

しばしのお別れ 江戸東京博物館その3

大正・昭和初期江戸情緒の名残を惜しみながら、近代化していく東京を見ていきます。 明治から大正・昭和へ 大正に入ると、東京に帝都としてふさわしい威容を与えた建築群が次々に登場します。1914年(大正3)起工以来7年の歳月を費やした東京駅が完成し、12月18日に開業式が行われました。その後も大戦景気により、丸ビル、帝国ホテル、三菱銀行本店、東京会館がいずれも1922年(大正11)に完成。 こうして東京の景観は大きく変わろうとし、これに対応する国の施策として、1920年(大正9

しばしのお別れ 江戸東京博物館その2

前回の江戸ゾーンに続いて、今回は東京ゾーンの中の明治時代について綴っていこうと思います。個人的に興味津々なのは東京ゾーンで、江戸ゾーンよりも写真をたくさん撮影しました。 今回は気に入った写真を選定したにも関わらず、予想以上に写真過多となってしまいました。なので感想・余談を控えめです。 明治時代明治東京の風俗 しかも配達は無料サービスでした。 スコットランド風の衣装は、チェック柄のキルトに羽飾りのついた帽子を斜めに被ったスタイルでした。大阪三越でも3年後に少年音楽隊を新設

しばしのお別れ 江戸東京博物館その1

もうすぐで休館してしまう江戸東京博物館へ遊びに行ってきました。 経年劣化による大規模改修工事のため、令和4年から令和7年度中まで全館休館するとのこと。昔から年に一度は訪れている博物館なので、しばらく休館するのは寂しい限りです。 このような事情から、今回は雑記として残しておきたいと思います。内容は随分偏りますけど。まずは江戸ゾーンから! 江戸ゾーン展示室に入場して最初に渡る日本橋。橋を渡りながら左に中村座、右に朝野新聞が目に入り、まるでタイムスリップしていくような感覚であり、

戦前の食器・道具を使う

2年ほど前から戦前の食器に夢中になっています。きっかけは骨董市で購入した日本陶器會社(オールドノリタケ)のカップ&ソーサーでした。それから主に不断使いできるものを収集し始めるようになり、なるべく日本陶器会社の食器を探して購入しています。 ようやく日常的に使えるほどの数が集まったので、食器類をまとめてみました。購入場所、食器の裏印、覚えている限りで目安として値段を記載しています。 台所道具主に調味料や茶葉などを入れるガラス容器を集めています。台所が近代的な構造のため、食器だけ

紳士と流行-明治・大正期の紳士Ⅱ-

前回からの続きで第二部紳士と流行について考察を進めていきます。 1.紳士と流行第一部では明治・大正期の日本における「紳士」という概念が、理想像としての紳士を目指し、努力によって達成可能なものだと考えられていたことを確認した。これを証明するような現象が当時の三越などの百貨店で起きていた。それを確認していこう。 明治末に新中間層が都市に流入し、彼らは工場労働者や会社員になっていく。中でもホワイトカラーと呼ばれる会社員は新しい都市の消費文化の担い手となる。都会特有の現象として匿

紳士と流行 -明治・大正期の紳士Ⅰ-

なぜ紳士と流行か紳士という言葉は今の日本ではどんな意味、ニュアンスで使われているだろうか。一定以上の裕福さと社会的地位、ある種の規範にしたが身なりの立派さ、ある種の道徳性(暴力的でない、粗野でない)といった意味内容が主であると思われる。これらの内容は、歴史上の「紳士」という存在・概念にどのくらい根差しているものなのだろうか。 また、他方では、紳士という言葉は今日(「紳士服」という言葉もある通り)男性一般の丁寧な呼び名になりうるほどに一般性をもった概念になっている。特定のカテ

ひとめぼれ

もう去年のことになりますが、骨董市で心奪われた精工舎の置時計。コロナの影響で骨董市の開催が制限される中でも素敵なアンティークに出合うことができました。 1920sの置時計11月の川越骨董市で購入した1920年代後半頃の精工舎置時計です。 商品が並んでいる中で一際存在感を放っていました。左右対称の曲線が何とも言えない愛らしさを醸し出している、アール・デコ期のデザインにひと目で心を奪われてしまいました。時計の形態に日本らしさを感じるのは宝珠に似ているせいでしょうか。 面取りガ

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1930年代の東京

玉の井散策

今年は建築巡りや街歩きができていませんが、昔の面影を求めて歩き回るのが好きで趣味の一つになっています。写真で残しておけば充分としていましたが、急に記録として残したくなり、軽い日記程度としてまとめておくことにしました。 今回は玉の井(現東向島)について綴っていこうと思います。 玉の井が舞台の作品に惹かれて玉の井と言えば、永井荷風『濹東綺譚』、前田豊『玉の井という街があった』、滝田ゆう『寺島町奇譚』が有名でしょうか。中でも濹東綺譚の木村荘八画伯による挿絵は、観る人を感慨深くさ

昭和初期のテーブルマナー

前回の記事では主に昭和初期の洋食器・カトラリーについて紹介しました。今回は、テーブルマナーやメニューについてまとめておこうと思います。昭和初期の西洋料理(フランス料理)については前回取り上げましたので、こちらの記事をご覧ください。 正餐の献立正式の晩餐は次のような順序で出されます。 (1)オールドウブル(前菜) 本料理の番外もので、本料理の前に提供される「摘み物」。食事を始めるに当たり、爽やかな色や香りによって食欲を亢進せしめるのが目的。生牡蠣、からすみ、いくら、鮭の燻

昭和初期のカトラリー・洋食器

先日、立川のGREEN HOOP MARKETで見つけた昭和初期のカトラリー。神戸のお屋敷から出たそうで、昭和初期に西洋の意匠を参考に作られたものだと店主さんに聞きました。 2本1組で28本購入。ソーダ用やアイス用もありますが。素材を聞き忘れてしまいましたが、銀メッキだと思います。経年劣化で汚れていたため、シルバーポリッシュで磨きました。細かい花々やエッチングの装飾が可愛く、洋風建築でカフェーを開いて使用したくなるほど素敵です。 購入をきっかけに、戦前昭和では一般的にどの

大正バスケットのお手入れ

藤のバスケット。通称大正バスケットは、その名の通り大正時代に大流行したハイカラな携帯用旅行鞄です。着物で旅行する時に使用しています。2個とも川越骨董市で購入。入手当初は手入れが必要な状態だったので、購入先の骨董屋さんに手入れ方法を教えて頂きました。長く大切に使用するには手入れが欠かせません。自分なりに楽しみながら実践した手入れを綴ってみようと思います。 お手入れ道具霧吹き 豚毛ブラシ2本(汚れを落とす用、油とラノリンを塗布する用) 植物油(オリーブオイル、荏胡麻油、椿油