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酒の楽しみ方

アパートの台所の下の扉の中には、いつも鏡月の1.8ℓボトルが入っていた。

深夜2時を回り、居酒屋のバイトが終わった私は車で約30分かけて自宅に帰る。立ち仕事でヘロヘロに疲れた足を何とか動かし、玄関を開け我が家へ。ただいまなんて絶対に聞こえない部屋の明かりをつけ、ニトリで買った1万円くらいの安いベッドに飛び込む。だが、ここで寝ない。仕事モードが抜けないせいか、むしろ目がギンギンに冴えるのである。

テレビをつけてから台所へ戻り、無造作に置いてある鏡月ボトルを片脇にかかえ、大きめな適当なグラスに氷を投入。冷蔵庫を開け、烏龍茶を取り出して部屋に戻る。ここから日課の1人大宴会が始まる。つまみはバイト先でもらったまかないの残り。それがない日はつまみも勿論ない。

適当に置いてある座椅子にどかっと座り、テーブルに今夜のゲストたちを並べる。

まず1杯目は手加減しながら。鏡月と烏龍茶を1:3くらいの割合で入れる。ペットボトルを逆さまにする勢いで注ぐので、グラスから飛沫が飛び出す。でもそんなのは関係ない。とにかく安酒を早くあおりたい一心である。

気付けばもう無くなっており、すぐに2杯目。ここからはもうルールはない。殆ど同じくらいの比率でできたウーロンハイに、ふわっと酔い始めてくる。さらにここで深夜のバラエティが加わると最高なのだ。このどうでもいい感じが気持ちよくて仕方がない。3杯目以降に至ってはほぼ鏡月のロックに近く、もはやよくわからなくなってくる。

こんな女子大生とは思えない飲み方を、約2年続けた。肝臓は案外丈夫だったようで、健康診断の結果も特になんともなかった。後からじわじわと来るのかもしれないが、そんなことは気にしない。独身の特権だとすら思っていた。

だが、疲れている身体に酒は一瞬で回る。深夜3時を過ぎる頃には、ブラウン管のテレビの電源を落とした時のようにプツンと記憶が消え、気づくと朝だ。

こどもを持った今、明日のことやら立場を考えると、恐ろしくてとてもじゃないがそんなことはできない。酒も随分と弱くなった気がする。楽しみ方はその時々だなと、酒場放浪記を観ながらふと思い出した今日この頃である。


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