マガジンのカバー画像

読書感想文

43
海外文学や現代文学の感想文。
運営しているクリエイター

#村上春樹

歴史改変小説を読む ifの世界線

 数日前にフィリップ・ロスの『プロット・アゲンスト・アメリカ』を読み終わりました。  出版社の解説にあるように、1940年のアメリカ大統領選挙でルーズベルトではなく、リンドバーグが大統領に選ばれていたら、というifの世界を書く小説なんですね。  ifの世界=架空の世界線を書く小説を「歴史改変SF」と呼ぶようです。SFとはいうものの、他ジャンルの作家の小説も多いのが特徴です。フィリップ・ロスも、現代米文学界を代表する作家の一人でした。  私は、ディストピア小説=自由がなく

2023年9月 読書記録 村上さんのエッセイ集、デルフト眺望など

 9月は、宮本百合子の超鈍器本『道標』に取り組んでいたので、他の作品をあまり読めませんでした。10月初旬にようやく読み終えたのですが、『カラマーゾフの兄弟』や『戦争と平和』に並ぶ長さだった気がします。青空文庫って分量がわからないので、気楽に読み始めてしまうんですよね…。 村上春樹『ポートレイト・イン・ジャズ』(新潮文庫)  ジャズの基本を知りたくて、読んだ作品。ですが、村上さんがジャズを通して人生を語った作品としても読めますね。55人のジャズ・ミュージシャンとその音楽につ

カフカ『変身』など

 近いうちに、村上春樹さんの長編小説『海辺のカフカ』の感想を投稿する予定なので、その前振りとして、カフカの小説について少し書いてみます。  上の引用にあるように、『海辺のカフカ』の主人公と大島さんは、カフカの短編の中では『流刑地にて』が一番好きなようです。  これはちょっと、変化球の答えかもしれません。『流刑地』も好きですが、普通はカフカといえば『変身』…十代の頃、私が一番好きだったのも『変身』でした。  十代の頃は、谷崎潤一郎の『細雪』、ジェイン・オースティンの『高慢と

2022年8月 読書記録 

 8月も、梅雨時のような湿度の高い日が続きましたね。それに加えて、あれこれ気ぜわしい時期なので、サクッと読める短編集や短めの作品を選びました。  人と同じく、本もまた次々に縁でつながっていくものなのだと感じます。森鷗外→江戸期の文学→中村真一郎、村上春樹→ドストエフスキー、カポーティ、フィッツジェラルドというように読書の幅が広がり、半年前には想像もしなかった読書記録になりました。 ドストエフスキー『白夜/おかしな人間の夢』  ドストエフスキーの短編集です。村上春樹さんの短

「ドライブ・マイ・カー」と「ワーニャ伯父さん」/チェーホフと太宰治 【読書感想文】

アントン・チェーホフ  アントン・チェーホフは19世紀末に活躍した作家で、短編と戯曲が有名です。笑いとかなしみを描くのがうまい作家ですが、比較すれば、短編小説は笑い、戯曲はかなしみの比重が大きい気がします。  代表作が手軽に文庫で読めること、歴史的・宗教的背景を知らなくても理解しやすいことなど、海外文学に馴染みがない方にもおすすめの作家だと思います。 「ドライブ・マイ・カー」と「ワーニャ伯父さん」  先日読んだ村上春樹さんの短編小説「ドライブ・マイ・カー」には、チェーホ