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青空文庫

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青空文庫で読める作品を紹介しています。
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#谷崎潤一郎

本が私を育ててくれた 【読書エッセイ】

 母は他人の意見に流されやすい人だったので、子どもの頃、誰かが言っていたという理由で、自分には合わないことをあれこれやらされたものです。いつかひとこと言いたいと思いつつ、言ったことがないのは、「流されてくれて良かった!」と思うことがいくつかあるからです。  その一つが、祖母の家の近所にあった本屋さんのアドバイス。その本屋さんのアドバイスに従って、季節ごとに本を買ってくれたのです。今でもたまに話題になるようなロングセラー本が多かったのですが、どれも夢中で読みました。  母は本を

名刺代わりの谷崎潤一郎10選

 先日、谷崎潤一郎の作品がテーマの読書会をしました。もともと敬愛する作家ですが、皆さんのお話を聞いて、ますます谷崎愛が深まった気がします。  ということで、青空文庫で読める谷崎作品のうち、特にお勧めしたい10作を年代順に選んでみることにしました。   『刺青』   実質的な第一作です。この小説を永井荷風に認められた時の話が随筆『青春物語』にありますが、そりゃ、荷風も認めますよね。ここまで完成度の高い第一作って、そうはないのでは? 足フェチをはじめとする、谷崎文学を語る上で

2024年1月読書記録 クンデラ、太宰、紫式部

 1月の読了本は6冊。川端康成の『山の音』については別途感想を書く予定です。 廣野由美子『批評理論入門「フランケンシュタイン」解剖講義』・『小説読解入門「ミドルマーチ」教養講義』(中公新書)  十九世紀の英国女性作家二人の小説『フランケンシュタイン』と『ミドルマーチ』を題材にして、小説をどう読めばいいか解説する新書です。  noteで書いている読書感想文の参考にしたいと考えて読んでみました。自分でも実践している読み方もありましたが、より深くより幅広い読み方を教えてもらえま

どの訳を読むか? 与謝野晶子訳『源氏物語』 前篇 【青空文庫を読む】

 これまでも毎月の読書記録に少し書いていたのですが、今回からは「青空文庫を読む」というタイトルで、特に良かった作品や深掘りしたい作品を取り上げていきたいと思います。  青空文庫には主に著作権が消滅した作品(作者の死後50年経ったもの)が収録されていますが、古文で習うような作品を入れても読める人が少ないという判断なのか、ざっと見たところ、江戸期以前の作品は『古事記』ぐらいしか見当たりませんでした。ただし、古典作品を有名な作家が現代語に訳したものがいくつか見つかりました。  以

谷崎潤一郎『細雪』 時代の変化で読み方も変わる 【読書感想文】

 今、谷崎潤一郎の『細雪』を読んでいる。ジェーン・オースティンの『高慢と偏見』とともに、学生時代に繰り返し読んだ作品だ。あまりに何度も読みすぎたので、その後は手に取ることもなくなっていた。  ところが、先日noteでフォローしている方が谷崎の『吉野葛』を紹介していらしてーーこれも大好きな作品なので、青空文庫で再読してみた。一度谷崎の世界に入ると、とまらなくなり、青空文庫にある作品を次々に拾い読みして、『細雪』にたどり着いた。  『細雪』と『高慢と偏見』はどちらも、気軽に読め