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青空文庫

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青空文庫で読める作品を紹介しています。
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#読書記録

本が私を育ててくれた 【読書エッセイ】

 母は他人の意見に流されやすい人だったので、子どもの頃、誰かが言っていたという理由で、自分には合わないことをあれこれやらされたものです。いつかひとこと言いたいと思いつつ、言ったことがないのは、「流されてくれて良かった!」と思うことがいくつかあるからです。  その一つが、祖母の家の近所にあった本屋さんのアドバイス。その本屋さんのアドバイスに従って、季節ごとに本を買ってくれたのです。今でもたまに話題になるようなロングセラー本が多かったのですが、どれも夢中で読みました。  母は本を

2023年8月読書記録 17世紀のメタフィクション、子規の弟子

 今月は村上春樹さんの小説をまとめ読みしました。『ダンス・ダンス・ダンス』〜『アフターダーク』までの長編と、初期短編集『カンガルー日和』『回転木馬のデッド・ヒート』。これで長編は全部、短編も八割ぐらい読んだかな。村上さんの作品の感想は、また別に書く予定です。  それ以外では、三つの作品を読みました。 セルバンテス『ドン・キホーテ 前篇』(牛島信明訳 岩波文庫)  『源氏物語』を読むたび、千年以上前の作品なのに、これほど共感できるなんてと意外の念に打たれます。  海外の作品

2023年7月 読書記録 血の呪縛、毒親

プルースト『失われた時を求めて7 ソドムとゴモラ2』(井上究一郎訳・グーテンベルク21)  村上春樹さんの小説『1Q84』の主人公を真似て、寝る前に20ページずつ読んでいる作品です。去年9月の読書記録に第1巻の感想を書いたのに、あと3巻も残っている…。  ソドムとゴモラは聖書に出てくる都市の名前で、住民が同性愛行為を行ったために、神の怒りにふれて滅ぼされたとされます。  同性愛者だったプルーストが、同性愛を否定するような表現を使わなければならないことに、時代の制約を感じます

2023年6月 読書記録 余計者、プロ文、堀辰雄

遅くなりましたが、先月読んだ本のまとめです。 高橋睦郎『漢詩百首 日本語を豊かに』(中公新書)  森鷗外の小説がきっかけで、江戸時代後期の文人画家、蠣崎波響が夫の先祖と知りました。文人画家というだけに、波響は漢詩を作るのも好きで、しかも、波響の漢詩に北大の教授が注釈をつけた本が出版されているんですね(絶版ですが、Amazonにありました)。いつか読んでみたいけど、漢詩の素養がなさすぎる。ーーということで、入門書になりそうなこの新書を読んでみました。  学生時代、漢文が苦手

2023年3月 読書記録 殉死、最後の武士、耽美派

山本博文『殉死の構造』(角川新書)  殉死について、歴史学者が読み解く新書。森鷗外の『阿部一族』を読んだ時に気になっていた作品です。  主君が亡くなった時に、家来が後を追って死ぬ殉死。武士道と結び付けられがちですが、実際に行われていたのは短い期間なんですよね。最初の例は1607年に松平忠吉(徳川家康の四男)が死んだ時、1663年には口頭で殉死禁止令が出され、68年には家来が殉死したという理由で、奥平氏が石高を減らされています。『阿部一族』の元ネタになった『阿部茶事談』は殉死

2023年1月 読書記録 ポピュリズム、カフカ、カフェーの女給

筒井清忠『戦前日本のポピュリズム 日米戦争への道』(中公新書)  ポピュリズムの概念は理解できるのですが、どこまでが「国民の声を聞く」でどこからが「ポピュリズム」になるのか家族に訊かれても、答えられない。ーーということで、戦前のポピュリズムを分析しているこの新書を読んでみました。しかし、日本史専修出身とは思えないほど昭和史に疎い私にとっては良い復習になったものの、現状の理解にはつながりませんでした。家族には、「『オール・ザ・キングスメン』を観て考えてみよう。ショーン・ペン主

2022年12月 読書記録

 あけましておめでとうございます。今日は、会社の人たちと伝通院に初詣に行ってきました。  伝通院は、徳川家康の母親・於大の方の菩提寺です。今年の大河ドラマ『どうする家康』では松嶋菜々子さんが於大を演じるようですが、時代の波に翻弄されながらも、息子・家康の天下取りに大きな役割を果たした女性ですよね。伝通院周辺には、他にも徳川家ゆかりの女性の菩提寺がいくつかあるので、いつかまとめて紹介したいです。  さて、去年の12月は、青空文庫から五作品とそれ以外の三冊を読みました。 塩野

2022年11月 読書記録 青空文庫、ゴーギャンと祖母など

 11月に読んだ青空文庫は、三作。落語の口述筆記と江戸時代の浮世草子の現代語訳です。文豪の小説の合間に、こうした毛色が違う作品も読んでいきたいです。 三遊亭圓朝『真景累ヶ淵』『牡丹灯籠』  息抜きにショートショート的なものを読みたくなって圓朝の落語を選んだら、どちらも中編小説ぐらいのボリュームでした…。  三遊亭圓朝は、幕末〜明治に活躍した落語家です。多くの新作落語を創作し、落語中興の祖として知られます。  『真景累ヶ淵』には歌丸師匠のCDがありましたが、何と七枚組。CD

2022年10月 読書記録 娘が見た太宰治、青空文庫など

 noteで紹介するために、本腰入れて青空文庫の作品を読み始めました。10月に読んだのは7作品。そのうちの2作品をここで取り上げます(残りは後日、個別に感想を書く予定です)。 島崎藤村『桜の実の熟する時』   島崎藤村は、村上春樹さんが選ぶ国民作家リストに名前が挙がっていたので、代表作以外も読んでみたのですが……この小説、『破戒』で有名になる前の習作? と思いながら読んだのに、実は中期の作品。その割に、まとまりがなく冗長でした。『夜明け前』も二度挫折しているので、藤村の文