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裏ひよこ日記。ミッドナイトインパリ

クリスマス近くに今年も勇気を奮ってふたりに今年もラブレターちょうだいといってみた。

プレゼントが手紙とか素敵じゃない?

モノを贈られるのも嬉しいことだけど、心のこもったお手紙が一番嬉しかったりする小市民なわたしなのだ。

アルベルトは即答でもちろんさ。ひよこちゃんになら365日毎日書いてもいいくらいだよ。

さすがわかってる。わたしの扱いをよくわかっている男性である。

片やもうひとりはああ?!めんどくせー!
そういうのが死ぬほど苦手らしいフレッドは片方の頬がひくっとなった。

書いてよ。いいじゃん。減るもんじゃないじゃん。

減る

減らない

だいたい何書けばいいんだよ?

だからラブレターっていってんじゃん!

去年書いた。

…まあ、考えとく。
と、言い残し、フレッドは飲みにでかけていった。

ひよこちゃん。

なに?アルベルト

僕らも出かけない?

どこに?

そうだな、あそこのホテルのラウンジバーは?僕がいるからカクテルのんでも大丈夫だよ。

ほんと?

うん、ふたりの時間を楽しもうよ。

うん

じゃあ、アルベルトがわたしの洋服選んで?
わたしがアルベルトの洋服選ぶ。

いいね。ひよこちゃんをうんと可愛くしてあげる。

ふふっ

そんなわけでお互いの着ていく服を選んで着てみた。なかなか新鮮である。
ワンピースの上からジャケット、ロングブーツにコート。髪もアレンジしよう。とアルベルトがゆるく髪を巻いてくれた。とことん女のコ扱いしてくれる。ほんとうにわかっている。

うん、すごくいいね。とても素敵だ

アルベルトもカッコいいね。

そりゃあひよこちゃんが選んでくれたものだから

それからふたりでアルベルトがよく行くホテルのバーラウンジに行き、バーテンダーさんに
僕の奥さん。やっとなってもらったよ。と恥ずかしげもなく堂々といいきった。

ああ!あの!…おめでとうございます。一杯僕からサービスしましょう。奥様はアルコールは?

彼女にはあまり強いのは難しいかな。軽くて良い香りがするあれがいいなとアルベルトがバーテンダーさんと話してる。

出てきたカクテルは薔薇色のカクテルで
わたしのオリジナルなんですよ。度数は抑えました。薔薇のシロップも入ってます。「薔薇色の人生」て言う名前です。

暗めの照明にお客さんたちの程よいボリュームのオシャベリの声にシャカシャカとシェイカーを振る音と。とても大人の場所な感じで
わたしはお行儀よく振る舞ってお酒に飲まれないように気をつけていたらアルベルトが
これからはひよこちゃんもこういう場所にどんどん連れて行かないとね。と笑っていた。

常連さんたちだろうか、アルベルトに次々に声をかけていき、わたしに目を留める。その度にアルベルトは私のことを妻です。と紹介していく。

アルベルト、牽制?
わかったわかった手を出さないように気をつける。と笑われたりしてそれを眺めるのが楽しかった。

バーテンダーさんが作ってくれたカクテルが気にいったわたしは同じものをまたおかわりして
非常にご機嫌になった。フワフワとして気分がいい。夜の外出なんてほとんどしなかったから真夜中のパリというのはこんなに素敵なのかとうっとりした。

ひよこちゃんが寝ちゃう前に帰らないとね。

帰るの?

帰りたくないの?

居心地がよかったから。

じゃあ、また来よう。約束。

うん

帰りの車の中でやっぱりウトウトしてたけど

クリスマスにアルベルトはとろけるチョコレートみたいなラブレターと化粧品をたくさんくれた。ほんとに嬉しい。ホクホクである。

アルベルトのお手紙は読むだけでホワンと酔いそうな心に花が咲きそうなそんなラブレターだった。

片や女のコの気持ちをまるでわかってないフレッドはラブレターどころか年末総決算みたいなおよそラブレターとは呼べない(ダメ出しすらしてきた手紙をくれた、もうひとりの俺へ。などというタイトルのやつ)しかもご機嫌でくれた。どうだ!という感じで。

クリスマスなのに、ラブレターっていったのに
叱咤激励の手紙寄越した。いや、内容はとても良かったと言うべきなんだろうけど。

違うそうじゃない。
心あたたまる優しい言葉が聞きたかっただけだ。叱咤激励はいつでもされてる。これ以上今頑張れないよ…去年のあれはウソを並べた美辞麗句だったのだろうか。

フレッドは手紙が短いからと、そのかわりのつもりか何かもうさっぱりわからないけれどすごくいい香りがする薔薇の花束や試験に受かった祝いだ。とフルボトルのシャンパンやくまさんのケーキやたくさんの本ととにかくたくさんのいろいろなちょこちょこしたものをわたしにくれた。

そしてフレッドは急な呼び出しで会社に行った

プレゼントの山にびっくりし、しかし手紙を読んですっかり心が冷えた私をみてアルベルトがひよこちゃん。ちょっとそれ見ても構わない?てフレッドからの手紙をよんで一言。

アイツは…ほんとに下手だな。と苦笑いした。

わたし、似てる?

いいや、ひよこちゃんはひよこちゃんだよ。
…まるで違う一人の人間だよ。優しくて繊細で一生懸命自分の人生を切り開こうと歩こうとしている素晴らしい女性だよ。

う、ぐすっ

泣かなくていい。おいで。大丈夫だから。言葉選びが下手なだけだよ。

わかってるよ。

アイツはああいう風に言われるのが嬉しいからひよこちゃんもそうだと勘違いしてるだけだよ。

うん

クリスマスに適した…ラブレターな手紙ではないんじゃないか。は僕も賛成だ。まあ、うん僕からしたらとても好都合だけどね。まあ、でもふたりは絶対離れないと固く信じてるからそんな風に書けるんだろうよ。

フォローがすごいスパダリアルベルト

…せっかく心を開けるいいチャンスにわざとか天然か閉ざされるような真似して全くあいつは馬鹿だ。アルベルトは小さい声で呟いた

アルベルトは後でフレッドを締めとくと笑ってウインクした。

その後どうなったかはわからないけど
たぶんフレッドはアルベルトにこっぴどく叱られたと思われる。








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