仕方がない?

2年前の冬、K君は急性心筋梗塞で救急受診しました。40歳になるかならないかの時だった。とっても痛がっていて、カテ室でもずっと、「せんせ、痛い、痛い」と。ずっと唸ってた。ステント置いてTIMI3で終わった頃には、「うん、もう大丈夫」とニコニコしてた。心筋酵素逸脱も1000程度で、元気に退院できました。

君の人生は、僕の想像を絶する。
精神遅滞を理由に親から捨てられた君は、一人で小さい頃から生きてきた。
いろんな人に助けられて、最終的に作業所で働くことにまでたどり着いた。
 
ただ、家族性高コレステロール血症という重病を持って。
君には理解できなかった、なんのことだかわからないままに、
夜中に恐ろしいほどの胸痛で気付かされたわけです。
「せんせ、おれ、けっかん悪いの?」
「大丈夫、ちゃんと、毎月注射しにきてね」
なんて、話しながら。

毎月毎月、タバコをやめないとダメだよ!なんて言うと、
「大丈夫、せんせに診てもらってるから」と
「クスリ、オレ、飲んでる」
なんて言いながら、毎月、両耳にピアス5個ほどのリングと、腕にはジャラジャラリングをはめつつ、タバコくさい君は、周りで暴言を吐くのに、私の前では、本当にかわいいこどもだった。

「いいよ、せんせに、聞くから」と、いつも外来の前でいざこざ。
その都度、出て行って、ニコニコすると「あ、せんせ」と、君もニコニコ。

ある時、初めて外来に来なかった。
電話連絡してもつながらなかった。
嫌な予感がしてました。
そんな事はないと思ってました、まさか、ね。
また、君は外来に来てくれると思ってました、例のサングラスをかけて。

それから数日後でした。
君とは二度と会えなくなったと知ったのは。
聞けば、消防隊が管理人さんの許可を得て、
玄関の鍵をこじ開けて入った時にはすでに、冷たくなっていたらしい。

君はまだ40歳になったばかりだった。まだまだこれからだった。若いスタッフから言われた「仕方ないですよね、先生」と。
何が?と思いました。
仕方ないってなんですか?医療の負けを、そんな簡単に受け入れてどうするの?
ゆとり教育のせい?なんですか、そのコメントは。
一人の若者が死んだ事が、そんなに珍しく無い事ですか?感覚が麻痺していますか?

私は、一人の若い患者を失った事が、とても辛くて仕方がありません。
『死』と言うことに畏れを、若い方々に感じて欲しい。
それとも、日本の医療サービスは、
こんなこと、日常茶飯で「いちいち。。。」とでも思っていますか?

主治医が私でなければ、もっと、良い人生が送れたかも知れない。
風体が不良そのものの君を診るのは私しかいなかったのです。
申し訳ない、すまん。
本当に残念で仕方ない、K君。

もう痛みがないはずだから、安らかに眠ってください。

主治医より

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