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手を繋ぎたくなるウイルス

いつの間にか僕の両手は2人の人と手を繋いでいた。

ある瞬間から、猛烈に本能から「目の前の人と手を繋ぎたい」という欲に駆られた。

そしてその欲は感染症のように広まり、今では見える範囲でも何百人もの人が手を繋いでいる。

僕の両隣の人の隣の人も、そのまた隣の人も、キリの無い程の人々が手を繋いで一体となっている。

痒くなった頬を掻こうとすると隣人の手も一緒に動かさなければならない。

トイレとかほんとにどうするのだろうと思いながら過ごしている。

試しに一瞬、両手を離してみた。

すると、今まで生きてきてずっと自分に備わっているものが欠如した時のような喪失感に襲われた。

そしてすぐ手を繋ぎ直す。

手から安心感が芽生えてくる。

はて、なぜ急にこのような事態が起きたのだろうか。

みんなが手を繋いでいるので、左の人から伝言ゲームのように噂が回ってきた。

どうやら、コロナの変異株が変異に失敗したウイルスが蔓延しているようだ。

コロナ禍で人のつながりが薄れた今、人は繋がりを求めている。そんな人間の意思と、変異しようとして失敗したコロナの変異株が融合し、「手を繋ぎたくなるウイルス」が誕生したようだ。

随分大胆な予想だが、納得はできる。とりあえずその説を信じておこう。

しかしこうも両手が塞がっているままでは都合が悪い。

どうにかならないものだろうか。

-地球のどこか-

大規模で、兵士たちが戦争をしている。

お互いに距離を取り、少しでも近づこうとすれば撃たれるような緊張感で両者睨み合いをしている。

しかしある者が急に銃を捨て、隣の兵士と手を繋ぎ始めた。

そしてその連鎖は迅速に拡大していった。

そしてその戦場には1人も武器を持つものはいなかった。

彼らの両手には温かい血の通う人間の手があった。

今はもうこうして敵も味方もなく手を繋いでいる。

今まで何のために睨み合いをしてきたのだろうかと馬鹿馬鹿しくなる。

-エピローグ-

ある日突然人類は手を繋ぎ始めた。

そしてその圧巻の光景は1日で終幕した。

「手を繋ぎたくなるウイルス」が自然消滅したようだ。

おそらく変異株が間違って変異したことに気づき、これではダメだと自らを変えたのであろう。

しかしそのウイルスがいた24時間の中で、死者は1人も存在しなかった。

これだけの戦争が起きていながら、死者数ゼロというのは奇跡としか言いようがない。

さて、今日は切り替えて、普段通りの生活を営もう。

そう決意した途端、周りの人々が皆、スキップをし始めた。

これはまさか、、、。

いつの間にか僕も軽快にスキップをしていた。

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