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コーヒーカップさん


こんばんは。今日は、今日あった悲しい出来事を話します。


私はいま、キッチンのシンクにいるのですが
私が来たくて来た場所ではありません。
ここに来るまでの話をしたいと思います。




最近、専ら家にいることが増えた彼(家主)は
今日のお昼、「最近相手してやれてないから」と
私を食器棚から連れ出してくれました。
この間はかわいい花柄の服を来た彼女が
彼に連れられていきました。
彼はきっと遊び人なのでしょうが、私はそれでも構いません。
こうやってたまにあるやさしさに救われているから。


いつも彼がコーヒーの豆を棚から取り出すときは
ドキドキします。
コーヒー豆を取り出すということは、食器棚から誰かが選ばれるということ。
きっと、バレンタインデーの男性の気持ちってこんな感じなのでしょう。

そんなわけで、今日私は久しぶりに食器棚から飛び出すことができました。

デートコースはいつも決まって、テーブルの上。

彼がコーヒー豆を挽いて、お湯を注いでコーヒーが出来上がるのを待ちます。
眺めているだけで幸せ。


いよいよ湯気のたっている熱々のコーヒーが
私に注がれます。
私はこれを愛情と呼んでいます。


コーヒーが注がれた途端、熱いくらいの愛情で
私の心は満たされます。

これにとどまりません。
コーヒーが注がれたということは
彼がこのあと私にすることは目に見えています。


私の心は温まるどころか、より熱く高揚し始めます。

彼は私の脇腹に手を回し、私を持ち上げ
そっとキスをしました。

こんなに幸せでいいのでしょうか。


と、しばらく私と彼はテーブルの上でデートを楽しみました。

しかし、デートも終盤に差し掛かるにつれ、
彼の態度はコーヒーとともに少しずつ冷たくなり、
コーヒーとともに彼から感じられる愛情も減っていきます。

そうして、気づいた頃には私は冷たいシンクへと運ばれ、
いまここで、彼がせめて私を家に連れ戻してくれるのを待っているのです。


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