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おおきな おむずびと、ちいさな おむすび

~それとすこしの お箸のおはなし~


※[2020.11.3追記:この記事に、「てまりおむすび賞」をいただきました! ご説明は最後に。]


私はもともと、『お箸のおはなし』を書きたくてnoteを始めました。
でもちょっぴりワケあって、何本か書いたその おはなしは “下書きに戻す” ことをしています。
今日は久しぶりに少し お箸のおはなしに触れながら、おむすびについて(私なりに) つらつらと綴ってみたいと思います。



***


ある おおきなおむすびと、ちいさなおむすびに
ちょっとした感動を覚えたことがあります。


おおきな おむすび

今から2~3年前の夏の日。
所用があって、ある大学を訪れたときのことです。
その学校には良く知る間柄の職員の方(学生課長さん)がいたので、昼食はその方と学食でご一緒させて頂きました。
その学食の様子に興味津々の私。いろいろ伺うと、その方がこんなことを教えてくださいました。

「(厨房内で働く60代くらいの男性を指して)ここのメニューはね、全部 彼が考えているんですよ。この学食のチーフです。
彼の発案で、ある時から 1コ100円でおむすびの販売を始めたんです。
”経済的に毎日定食はキツイです”っていう子のためにって。

そのおむすびは彼が握るんですけどね。どんどん巨大化しちゃって!
はじめは普通のおむすびだったのに、今では爆弾みたいになってるんですよ。僕もビックリ。
夏休み中は販売してないから、今日は見せてあげられないのが残念ですけど、“握る”というより、こう(両手指を広げて) “固める”って感じかな。

ほら、ウチにはスポーツ専攻の学生も結構いるでしょ。
彼らはもう、腹ペコですから。とくにお金がない学生は、爆弾おむすびに大喜びです。
その喜ぶ姿を見て、おむすびは またどんどんおおきくなっちゃうんですよね。ハハハ。」


ちいさな おむすび

昔 秘書としてお仕えしていた評論家の先生のお宅に、よくお邪魔することがありました。
今は亡きその先生のことは、以前 noteに書いたことがあります。
このおはなしの当時、その先生は80代後半。
眼病を患われ、ほとんど盲目でした。

ある日先生のお宅にお邪魔すると、リビングのテーブルの上に置かれたお皿に、とても ちいさなおむすびが、ちょこんと乗っていました。
手まり寿司よりも さらに小ぶりな一口サイズです。
思わず「かわいい!」と はしゃぐ私に、そばにいた先生の奥さまが 誇らしげにこうおっしゃいました。

「そうでしょ!? ご飯が余った時には、いつも主人のために こうしてつくって置いておくのよ。
目が見えないと 普通のおむすびは食べづらいけれど、これならパクっと一口でお口に入りますものね。
ちょっとおなかが空いたときに、おむすびのおやつって、いいでしょ?」

先生はその言葉を聴きながら、やさしい笑みを浮かべて うなずいていました。


おむすびの魅力

おむすびには元来、つくる人の手のサイズや好みにより、大きさや形が違ってくるところに大きな魅力があるように思います。
今はコロナの関係も加わって、工場で作られた(衛生的で形が整った)おむすびしか食べられないという人も少なくないようですけれど。。
おおきくても ちいさくても、そして多少 形がイビツだったとしても、つくる人の ぬくもりが伝わってくるようなおむすびは 好きだなあと思います。

さらに先ほどの2つの例のように、つくり手の都合によらず、ひたすら相手をおもって形状を変えるおむすびには、なお ほっこりとした愛情が詰まっているようで、愛おしさを感じてしまう私です。


ちいさな おむずびのおはなしを少し続けます。
先生は、目の他に、脳梗塞の後遺症で右半身も不自由でいらっしゃいました。
お箸を使わずに手で直接頂ける おむすび というのも、嬉しいポイントだったはずです。
お皿の位置さえ探ることができれば、あとは動く左手で直接おむすびをつかんで お口にポンと運ぶだけですから。


手食文化

ところで
私は本職とは別に、これまでいくつかの小学校の授業で、マナー講師としてお箸の講座を担当させて頂く機会に恵まれました。主に低学年対象です。
(過去形にはしたくないのですけれど、今はコロナの影響で小学校もお箸の講座どころではないようです。また児童の皆さんとお会いできる日が早く訪れますように。)
私は“マナー講師”というよりも。。 。ただ日本の素敵な文化をお伝えしたいという一心で臨んでいるつもりです。


私が講座を担当するときには、大抵 冒頭で
世界には、私たちのようにお箸を使う人たちと、
ナイフ・フォーク・スプーンを使う人たちと、
手食といって、手でお食事をする人たちがいまーす!

と言って、お箸のおはなしを始めます。
この言葉から始めるのは、まず「世界の中のお箸(世界の中の日本)」を意識してもらいたいからです。

また、この一言(?)を発すると、次におはなしが繋げやすいから ということもあります。
・お箸を使う人って世界にどのくらい(何割くらい)いると思う?
・日本の他にお箸を使う国は?
・日本と中国のお箸の相違点とその理由
・日本だけのお箸の文化…
などなど、その時によって おはなしを選択しながら広げることができるのです。

でも もしも、大人の方を対象としてお箸の会を開催するならば、「もともと全ての人類は手食でした」と続けるかもしれません。
“手” は全ての食文化を生み出した根源です。
その手食から、理由があってお箸などの食具が生まれたのですから。
それぞれの地域の主食や調理法、宗教などの影響を受けて食具は生まれ、(または手食を継続し、)その食具と密接に関連して食文化は形成されてきました。

そのお箸誕生の歴史には諸説あって、小学生に おはなしするのは少し難しいのですけれど、お箸は一番はじめに生まれた食具(“手”を食具とすればその次)だということは確かです。
日本では遅くても、飛鳥時代にはお箸を使い始めていました。
箸食文化は、長い長~い歴史を有しているのです。
その長い年月を経てもなお、人類の食の原点である手食の名残をとどめるものが・・日本にもありました!
お寿司のにぎり。そしておむすびです!

おむすびに 懐かしさや愛着を感じるのは、その食の摂り方が私たちのDNAの深いところに組み込まれているからでは?なんて思ったりするのです。

また、お箸の講座では、
「お食事をするときには、目の前のお料理が出来るまでに関わった全ての人たちに感謝し、自然の恵みや 生き物のいのちに対して “いただきます”とあいさつをして いただきましょう」
という おはなしをしているのですけれど、
おむすびの場合には、手指で直接 ご飯に触れることで、そんな気持ちが自然に湧き上がるように思います。
もしかしたら自分でも気づかないくらい、とても自然に。


・・ちなみに それぞれの地域で食具が生まれた背景のことですけれど、
東南アジアやアフリカなどでは 水分が少なくパラパラとした長粒のインディカ米を食べるには手が最も適しているから手食、
日本では 粘り気のあるジャポニカ米を食べるのにお箸が最も適しているから箸食、というのも理由のひとつです。
“たとえしっとりとした日本のお米も、おむすびにすれば手食に適している” ということになるのでしょう。
お箸の国における手食のおむすびって、なんだかステキ。


感謝の祈り

「八百万の神」という言葉が象徴するように、日本人は古来、自然のいたるところに神さまの存在を感じながら日々の生活を営んできました。
自然を尊び、感謝と畏怖の念を抱いて 折々に神さまへ祈りを捧げてきたのです。

ハレの日には神さまにご馳走を捧げ、それを私たち人間が頂いてきました。
お正月のお節料理がわかりやすいですね。
農耕神である「歳神様」に感謝の気持ちをこめて捧げるのがお節料理です。(ハレの日に使う”柳箸”につていは、また別の機会に。)

またとくに、農耕民族の日本人にとって、稲作は命に係わる大切なものでした。
新嘗祭(にいなめさい:その年に収穫した新穀を天皇が神さまに供えて感謝する宮中行事)に代表されるように、暮らしの要だった農耕作業の節目には さまざまな年中行事が営まれ、今なお伝承されています。

何事も時代とともに変化することはあるのでしょう。
でも、私たち日本人には 自然の恵みの有難さや お米の大切さを感じる心が宿っているに違いない!と思うのです。


お米からたくさんの喜びを生み出す 学食のおおきなおむすびと、
ほんのわずかに余ったごはんも無駄にしない 先生宅のちいさなおむすび。


いずれもそんな心が表れているようで、愛おしいおむすびです!!


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― おにぎりの絵本 -

さいごに大好きな絵本のことを。

昨年、料理研究家 土井義晴先生の和食の講座を受講させていただきました。
お料理教室ではなく、日本古来の食文化(というより”心”)を学ぶ 3回シリーズの「講義」です。
土井先生のおはなしは とてもあたたかく、そしてとても哲学的でした。
その中で、日本人の「結界」の概念について 私から質問を重ねさせて頂いた時のこと。
土井先生から
「むつかしいよね。あ、ええ絵本があるから来週持ってきたるわ~」と なんともご親切なお言葉を頂き、本当に翌週お持ちくださったのが、こちらの絵本です。(もちろん後日 自分で購入。)

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『万次郎さんとおにぎり』。
背表紙には「2才~4才むき」とありますが、、なるほど とても良い絵本です。
でもこの おにぎりから「結界」の解釈へと自らを導こうと思うと、深い深い世界。


私は今年2月に 大人の方を対象とした「お箸の国のおはなし会」を計画していましたが、コロナの関係で開催を断念しました。
いつか開催できる時が訪れたら、皆さんとこの絵本を読んで 語り合いたい(皆さんが感じたことを教えて頂きたい)と思っています。
その日が楽しみ~!



***


と、大小2つのおむすびを語ろうとしたら、いろんなことに波及してすっかり長くなってしまいました。
このことを書こうとしたきっかけは、いつも楽しみに拝読しているハスつかさんの なんともゆる楽しい企画を知ったことにあります。

もし私が何かおむすびのことを書くとしたら?って思ったら、頭に浮かんだのが2つのおにぎりのことでした。
あんまりゆるくなかった(?) かもしれませんけれど。。書いてる本人は楽しかったです!


ハスつかさんは、1000日間おむすび食レポにチャレンジ中。読む人が元気になれるようなおむすびの記事を日々アップされています。
旬の話題から どうやっておむすびに帰着するのか、毎日楽しみです。
楽しい企画をありがとうございました。


そしてここまで おつきあいくだいました方へ

最後までお読みくださいましてありがとうございました!



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▽ 11.3追記 ▽

こちらの記事、なんと、ハスつかさんから「てまりおむすび賞」をいただきました! ありがとうございます!
賞名は、大好きな先生宅の ぬくもりあるちいさなおむすびにぴったりで、なおさら嬉しく思っています。
ハスつかさんはもちろん、この長~くなってしまった文章をお読みくださいました方々に、感謝申し上げます! どうもありがとうございました🍙


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