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退職給与の額の相当性 不相当に高額とは?

こんにちは

セカンドオピニオン税理士の宮崎貴美子です。

退職金の計算において功績倍率を何倍にするかは悩ましいところです。特に死亡退職金の場合、残されたご家族の生活のことも考えて、少しでも多く渡してあげたい気持ちになるのもわかりますが、

税法の規定にそった金額であるかどうかの検討も必要です。

今日は、退職給与の額の相当性について、

一審の東京地裁判決平29.10.13では「平均功績倍率の1.5倍は相当な金額と認められる」として納税者の請求を一部認める判断を下したところ、控訴審の東京高裁平30.4.25では、地裁の判断を「失当」であると取り消し、国側の主張を全面的に認めた事案を紹介します。

原告(納税者)は
代表取締役が死亡したことに伴い支払った退職慰労金約4億2000万円
(240万円(最終月額給料)×27年(勤続年数)×5倍(役員倍数)×1.3(功労加算)=約4億2000万円)
を損金の額に算入して確定申告をしたところ

被告(処分行政庁)は
2 4 0万円×27年(勤続年数)×3.26(サンプルとなった同業他社の死亡退職慰労金の支払い実績から求められた平均功績倍率)=約2億1千万円
までが法人税法上損金に算入される金額であるとして更正処分を行いました。

つまり、
原告(納税者)の功績倍率は6.5倍(5倍(役員倍数)×1.3(功労加算))は認められない
被告(処分行政庁)の功績倍率3.26を超える3.24(6.5倍−3.26倍)約2億1千万円を超える金額の約2億1千万円は過大だとして所得に加算され、法人税等が追徴されました。

原審は、処分行政庁の調査に基づく本件平均功績倍率の3.26にその半数を加えた4.8 9に最終月額報酬額240万円及び勤続年数27年をそれぞれ乗じて計算される金額に相当する3億1687万2000円までの部分は退職給与として相当であると認められる金額を超えるものではなく、本件役員退職給与の額のうち「不相当に高額な部分の金額」は同額を4億2000万円から控除した残額の1億0312万8000円であることを前提として計算すべきと判断したことに対し

控訴審は、原審である東京地裁判決を補正するなかで、「特段の事情がない限り、平均功績倍率の1.5倍を用いて役員退職給与の適正額を算定すべき」という判断内容を削除し、

本件平均功績倍率は、被控訴人の同業類似法人の抽出を合理的に行った上で、法人税法34条2項及び法人税法施行令70条2号の趣旨に最も合致する合理的な方法で算定されたものであり、

同業類似法人の役員に対する退職給与の支給の状況として把握されたとはいい難いほどの極めて特殊な事情があると認められないので、更正処分は適法である、としました。


原審が「平均功績倍率の1.5倍を用いて役員退職給与の適正額を算定すべき」とした理由について、
「本来役員退職給与が当該退職役員の具体的な功績等に応じて支給されるべきものであることに鑑みると、平均功績倍率を少しでも超える功績倍率により算定された役員退職給与の額が直ちに不相当に高額な金額になると解することはあまりにも硬直的な考え方である」としていますが、「平均功績倍率の1.5倍」の根拠は明確に記されていませんでした。

本人に支払われた死亡退職金が認められないのではなく
法人の経費として、不相当に高額な部分は認められない、とは
判決文の法令解釈で法律の趣旨を知ることができます。

法人税法第34条第2項は
内国法人がその役員に対して支給する給与の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない、と規定しています。

これを受けて、法人税法施行令第70条第2号では
「内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給した退職給与の額が、当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額」と規定されています。

そして、これらの法令解釈等については、判決文で次のように示されています。

法人税法第34条第2項の趣旨は、法人の役員に対する退職給与等が法人の利益処分たる性質を有する場合があることから、法人所得の金額の計算上、一般に相当と認められる金額に限り必要経費として損金算入を認め、それを超える部分の金額については損金算入を認めないことによって、実態に即した適正な課税を行うことにあると解される。

法人税法第34条第2項の委任を受けた法人税法施行令第70条第2号は、法人税法34条2項所定の「不相当に高額な部分の金額」を役員退職給与について算定するに当たり考慮すべき事項を類型化して具体的に定めたものということができる。

功績倍率については、功績倍率はこれらの要素以外の役員退職給与の額に影響を及ぼす一切の事情を総合評価した係数であり、同業類似法人における功績倍率の平均値(平均功績倍率)を算定することにより、同業類似法人間に通常存在する諸要素の差異やその個々の特殊性が捨象され、より平準化された数値が得られるものということができる。このような各算定要素を用いて役員退職給与の相当額を算定しようとする平均功績倍率法は、その同業類似法人の抽出が合理的に行われ、かつ、その平均功績倍率を当該法人に適用することが相当と認められる限り、法人税法34条2項及び法人税法施行令70条2号の趣旨に合致する合理的な方法というべきである。

裁判所は、被告が原告の同業類似法人を抽出するために用いた抽出基準が合理的であると認められるか否かについて検討した結果

類似法人の抽出は以下の基準で行っており

① 同じ地域 一般的には原告(納税者)の所轄する税務署または国税局管内にある 
② 同じ業種 日本標準産業分類において、大分類、中分類、小分類を基幹の事業としている
③ 同じくらいの売上規模 売上金額の2分の1から2倍までの範囲の会社規模の類似法人を抽出している
④ その他 死亡を理由とする代表取締の退職かどうかなど

各税務署において抽出基準に該当する法人を漏れなく機械的に抽出した結果抽出されたものと認められ, 恣意的な作為が介在する余地は小さいと解されるから,本件平均功績倍率に 係る関係証拠が証明力を欠くということはできないとし、
国側が本件で採用した同業類似法人の抽出基準はいずれも合理的であると判断し、
その結果、法人税法施行令70条2号の趣旨に最も合致する合理的な方法で算定されたものであると判断しました。

なお、最終月額報酬240万円に対しても、最終月額報酬額は通常当該役員の在職期間中における法人に対する功績の程度を反映している、と判断しています。

法人と個人は別人格として扱われます。
「法人の役員に対する退職給与等が法人の利益処分たる性質を有する」からこそ、
恣意性を排除し、課税の公平を保つ目的で、不相当に高額な部分の金額は損金の額に算入しないと規定しているのです。

退職慰労金はすでに支給されており
相続税を払うからいいのでは?とはならないのです。

追徴税額として8千万円を超える支払いが発生することに、裁判する気持ちも理解できますが
合理的な方法で算定されたと判断されたものに対して、反論しても認めてもらうことは難しいといえるでしょう。

税務職員だった頃に
退職慰労金を払う原資があるから、いくら払ってもいいじゃないか、という質問を受けたことがありました。

そんな質問には
いくら払うかは自由ですが、法律で不相当に高額な部分の金額は、損金の額に算入しないと規定されているので、
調査で全額が経費として認められるかどうかはわかりません。
いいですよ、払いたい金額の全額が経費になります、とは答えられません、と回答していました。

退職金について検索すると、判例が数多く出てきます。

「不相当に高額」とされたものは今回紹介した功績倍率が極端に高い以外に、退職の直前に報酬を極端に増額したことで認められない場合もありますし

代表取締役を辞任した後も、経営の中心になっていた場合、退職した事実が認められないとして、退職慰労金は賞与として扱われた事例もあります。

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