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ショートショート『前日の夢』

夢をみた。つきあっていた彼女と別れる夢だった。夢占いでは逆夢だとされる夢だが、ぼくの場合は正夢になる夢なのだ。
 
いつの頃からだろう。覚えている夢は翌日に現実になってしまうことに気づいたのは。今日、彼女と別れる夢をみたということは、明日、別れることになるのだろうか。

翌日の土曜日。彼女から電話がかかってきた。

「まえから考えていたんだけど、義昭と別れることにしたよ。結婚も考えてくれていないし、もう待つのにも疲れたし……」

まさに夢でみたとおりだった。少しちがうのは、ねばることなく、すんなりと彼女の申し出を受け入れたことだった。夢のなかではまたそんなこといわないでよ、などといったあと、電話をきられることになっていたからだ。夢そのままになるわけではないが、基本の流れは変えられないことは、いままでの経験からわかっていた。あきらめるしかない。

いままでみてきた夢として、宝くじを買って、数百万円が当選する夢。母が亡くなる夢、歴史的な建築物が火事で全焼する夢などさまざまだった。

前日というのは微妙で、心の準備をする、なにか対策するには時間が足りない。いわゆる吉夢も悪夢もあるが、覚えている夢がかならず現実になることで、睡眠をとることが怖くなった時期もあった。

そんなある日、ぼくは、自分の肉体を離れて、部屋の天井のあたりにいる夢をみた。どうやらぼくは死んでいるようだ。昨夜、寝ているときになにか息苦しく感じたので、そんな夢をみたのだろう。となると、翌日にもぼくは、この世を去ることになるのだろうか。
 
そのとき、スマホに設定していたアラームが鳴り響いた。全身が耳の鼓膜になったかのようにアラームが鳴り響いてくるのだ。

そしてぼくはわかった。そして、愚痴った。
 
いちばん大事なときに現実かよ! と。

           (fin)

星谷光洋MUSICΩ『僕が君を見送るよ』✩


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