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労働判例を読む#359

今日の労働判例
【日東電工事件】(大阪高判R3.7.30労判1253.84)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、包装材料、半導体関連素材、光学フィルム等の製造を行う会社Yで、生産技術開発業務を担当していた従業員Xが、趣味であるオフロードバイク競技の練習中の事故で頸椎損傷等の傷害を負い、下肢完全麻痺などの後遺障害が残ったところ、車椅子での勤務が可能などの理由で休職からの復職を求めたものの、Yがこれに反して復職を認めず、退職扱いとしたものです。
 1審(大阪地判R3.1.27労判1244.40、労働判例読本2022年版■)に続き2審も、Xの復職の請求を否定しました。

1.ルール②
 1審は、著名な片山組事件の最高裁判決(H10.4.9労判736.15)が示した判断枠組みを踏襲しています。そのポイントは、①従前の職務を通常程度に行える状態に回復した場合か、②職種限定などが無い場合で、現実的に配置可能で本人も受け入れている業務がある場合には、復職可能と評価する、というものです(正確な文言は判決文で確認してください)。
 特に②に関し、X自身が従前の業務、すなわち生産技術開発業務にこだわり、他の業務を希望しなかったことから、②の現実的に配置可能な業務が存在しない(他の業務を検討する義務までYは負わない)とされた点が注目されます。
 2審では、Xがこの点に関し、Xが希望したかどうかに関わらず、より広く配置可能な業務を検討すべきであると主張しました。片山組事件の示したルールのうち②の部分を修正する主張と思われますが、裁判所はこの主張を否定し、1審の判断を維持しました。

2.実務上のポイント
 Xは、自分が従前の業務にこだわったために、全てを失ってしまいました。後から考えれば、処遇が多少悪くなっても、他の職を得て会社に残れた方が良かったと考えているかもしれません。上記ルール②に関するXの主張の背景には、多少条件について自分の希望を述べただけで収入がゼロになってしまうのではなく、もう少し中間的な解決があったのではないか、という思いがあるように見えます。
 しかし、給与の金額であればその多寡で希望に合致するかどうか、あるいはまだ我慢できる程度のものかどうか、評価することができますが、仕事の内容や配属先、肩書などであれば、本人の意向との関係を簡単に判断することはできません。だからこそ、ルール②では本人が了解しているかどうかという基準を用いていると評価できるでしょう。
 このように見ると、Xの気持ちも分からないではありませんが、ルール②に代わる適切なルールは示されていないように思われます。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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