見出し画像

労働判例を読む#352

今日の労働判例
【サンフィールド事件】(大阪地判R2.9.4労判1251.89)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、「フィールド業務委託契約書」を締結して働いていたXが、会社Yに対して、この契約に基づく未払報酬の支払いを請求し、さらにこれが労働契約であるとして、賃確法に基づく年14.6%の遅延損害金の支払いを合わせて請求した事案です。裁判所は、Xの請求を概ね認容しました。

1.判断枠組みと事実
 いわゆる「労働者性」は、契約書の文言ではなく、勤務実態によって判断することが確立しています。
 そこで判断枠組みが問題になりますが、本判決は、❶労務提供の形態、❷報酬の労務対償性、❸これらに関連する諸要素、から「総合的に判断」する、と示しました。判断枠組みとして、さらに多くの事情を上げる裁判例もある中、本判決は比較的シンプルな考え方を示したのです。
 そのうえで、❶に関し、①仕事の依頼や指示に対する認諾の自由が無かったこと、②指揮命令を受けていたこと、③予定されている業務以外の業務に従事することがあったこと、④Xに仕事の量・配分の裁量が無かったこと、⑤Xが他者に仕事を委ねられないかったこと、が指摘されています。
 ❷に関し、⑥報酬が出来高制でなく、時間を基礎としていた(欠勤した場合は応分の報酬が控除され、残業した場合は手当が支給されていた)ことから、指揮命令下で一定時間労務を提供したことの対価であるとして、労務対償性を認めました。
 ❸に関し、⑦採用過程が労働者の場合と同じであること、⑧業務に要した費用をXは負担していないこと、⑨他の労働者の報酬と比して高額であるとか、自己の資金と計算で事業を行っているといった事実がないこと、が指摘されています。
 このうち、特に①~⑤は、一定の評価が伴う事実であり、実際、それ自体が判断枠組みとされることもあります。つまり、これらの事実は、具体的な生の事実というよりも、抽象化された概念です。この意味で、判断枠組みとしては、むしろ①~⑤である(これに該当すべき事実は、それぞれの中で指摘されている事実である)、と考えるべきかもしれません。

2.実務上のポイント
 ただ、どの程度抽象化し、一般化して判断枠組みを設定するのか、という問題は、本質的な問題ではありません。近時の裁判例は、事案に応じて比較的柔軟に判断枠組みを設定する傾向があり、判断枠組み自体よりも、それによってどのような事実を重視するのか、という証明対象やその趣旨・理由の方が大切です。判断枠組みは、論点を整理して適切に認定するためのツールにすぎないのです。
 この観点から見た場合、ともすれば①~⑤がそれぞれ独立した問題として議論され、論点が曖昧になってしまうよりも、これらを一体として扱い、❶で示したような大きな方向性を示すことの方が、議論の方向性を明確にできるメリットがあります。
 いずれにしろ、勤務実態から労働者性を判断する、という大きな方向に沿った判断が示されたことは間違いありませんから、実務上は、引き続きその実態から労働者性を判断することが重要です。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?