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労働判例を読む#463

【国・天満労基署長(大広)事件】(大阪地判R4.6.15労判1275.104)

※ 司法試験考査委員(労働法)

 この事案は、写真の専門家から、さらにマーケティングプランナーと業務の幅を広げてきたKが、自宅で自殺したため、遺族Xが労災申請したところ、労基署Yが非該当と判断したため、Yの判断を取消すよう訴訟を提起した事案です。裁判所は、Xの請求を否定しました。

1.労働時間
 注目されるのは、労働時間の認定です。
 Xは、仕事に関連する作業をしている時間は労働時間である、という趣旨の主張をしましたが、裁判所は、裁判所が仕事として指示したような、指揮命令下での作業しかこれに含まれない、というルールを明確に示しました。そのうえで、個人所有のパソコンでの業務や自宅での業務を禁じているのに、Kが個人所有のパソコンで仕事のメールのやり取りをしていたとしても、指揮命令下での作業とは言えないこと、多くの時間、個人のブログの更新などの作業をしていたこと、などから労働時間に該当しない、と判断しました。
 一般に、Xの主張するように、仕事に関連する作業をしていれば、その時間は労働時間である、と考えている人が多くいるようですが、業務は会社の指示によって発生するのですから、労働時間かどうかを判断する際に、会社の指揮命令の有無を考慮することは当然のことです。もちろん、黙示の指揮命令もあり得ますから、業務指示が明確な指示の形でされるとは限りませんが、残業は時間外手当を多くもらうための従業員の権利である、かのような発想は間違いであることを確認してください。

2.実務上のポイント
 労働時間以外の要素も、労災認定の条件である因果関係(業務起因性)を認定するうえで重要であり、従業員がストレスを感じたであろうエピソードごとに、そのストレスの有無や程度を、丁寧に検討しています。
 本事案では、Kが担当していた取引先の業務に関し、そのキャラクターや舞台裏の様子を、個人のブログで無断で掲載し、取引先から削除を求められるなど、自らの「非違行為」によって引き起こしたストレスが多く見受けられ、裁判所はそれらのストレスを、業務上のストレスに該当しない、あるいはストレス強度が小さい、と認定しました。
 この点も、仕事に関連するストレスは業務上のストレスである、というわけではない、という評価が可能ですから、労働時間の認定と共通する面があるように思われます。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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