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労働判例を読む#385

今日の労働判例
【建設アスベスト訴訟(京都)事件】(最一小判R3.5.17労判1259.33)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、石綿の含まれる建材を屋外で作業していた屋根工Xが、中ひ種に罹患したことに関し、国Y1と建材メーカーらY2に対し、損害賠償を請求した事案です。
 2審はYらの責任を肯定しましたが、最高裁はこれを否定しました。

1.実務上のポイント
 ここでは、石綿粉じん濃度の程度が、より強い規制を必要とさせ(Y1)、より適切な健康配慮を必要とさせるか(Y2)どうかが議論されました。その上で、Xが屋根工をしていた時点での医学的な研究データを整理し、当濃度が基準を超えるかどうかが検討されました。
 たしかに、基準を超えるデータもある(このことが、2審判決の大きな根拠)ものの、それぞれの研究データの前提条件(屋外かどうか)等が合致するものに関して言えば、結果的に基準を超えるものはありませんでした。また、その理由も屋外の場合には風など自然喚起によって濃度が薄くなるなど、合理的に説明がつきます。このような理由から、Yらは屋根工に健康被害の発生することが認識できなかったと判断しました。民事の過失責任における予見義務・回避義務のうち、(健康被害発生の)予見義務がなかった、という評価でしょう。
 過失責任については、後になって振り返ると、原因行為との間に何らかの因果関係があった、と認定されやすいのですが、そこで「過失」の要件が、責任判断を調整する役割を果たします。ここでは、Xが屋根工をしていた時点での科学的な知見を基に「過失」の有無を判断することによって、振り返れば「気付いたはずだ」と言われるところを、当時としては「気づけなかった」と評価しています。
 このことは、会社にとってみると、一面では業務の予測可能性を確保するうえで有難いことですし、適切な競争環境を確保するうえでも重要です。
 しかし他面では、その時点での最新の知見に基づいて安全性を判断することが求められますので、従業員の健康や安全に関わる問題については、常に最新の情報を取得し、必要な対策を検討しなければならない、ということにもつながります。
 この両面を、理解しておきましょう。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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