労働判例を読む#231

【日の丸交通足立事件】東京地裁R2.5.22判決(労判1228.54)
(2021.2.19初掲載)

 この事案は、67歳を定年とするタクシー会社Yで、定年後の嘱託雇用の69歳の運転手Xが、軽微な交通事故を起こし、直ちにこれを報告しなかったことなどから更新拒絶された事案で、裁判所は更新拒絶を無効とし、Xの労働者としての地位を認めました。

1.判断枠組み

 裁判所は、労契法19条2号を問題にし、更新の期待の有無は、「当該雇用の①臨時性、②常用性、③更新の回数、④雇用の通算期間、⑤雇用期間の管理の状況等を総合考慮して決す」としました。

 特に注目されるのは、①臨時性と②常用性です。

 これは、実際にいくつかの裁判例で、担当業務が①臨時的補助的なものか、②基幹的常用的なものか、を問題にしていることから、実務上も比較的重視されていることが分かる判断枠組みです。有期契約者として補助的な仕事を与えている、と言いながら、実際は正社員と同様基幹的な業務を与えていれば、それだけ長期雇用される期待が高くなる、ということです。

 言っていることとやっていることがズレていると、会社の人事施策が違法と評価される危険が高まりますが、それを具体的に示していると評価できます。また、このように有期契約者に無期契約者同様の業務を担当させるなどして、両者の違いが相対化していくと、いわゆる「同一労働同一賃金」(パート法8条・9条)に関し、違いの合理性の説明が難しくなっていき、処遇の違法性が認められる危険も高まります。

 このように、①臨時性と②常用性は、実務上特に注意すべきポイントとなります。

2.あてはめ

 この判断枠組みに沿って、裁判所は、Xの更新の期待を認めました。

 特に、③更新回数自体は1回しかありませんが、④Xが昭和57年からずっと働いていることと、⑤他の運転手の雇用状況(70歳以上の運転手が16%など)が特に強調されています。もちろん、明言されていませんが、タクシー会社にとって運転手という業務は、経営の基幹的業務ですから、①臨時性は低く、②常用性は高い、という評価は当然、前提にされていると見るべきでしょう。

 このように、上記判断枠組みとして示された5つの要素のうち、③は消極的な状況ですが、他の4要素は積極的な状況です。5つ全てが揃わないといけないのではなく、「総合考慮」としている理由が、このことからも理解できます。

3.更新拒絶の客観的合理的理由・社会通念上の相当性

 ここでは、Y側の事情として、事故対応の在り方を、機会があるたびに指導確認し、徹底していたこと、安全運転を徹底するために、運転状況を更新の際判断材料にすべきこと、実際、Xは交通事故を起こしながら適切に対応しなかったこと、など、Y側にとって積極的な事情が認定されていますが、他方で、事故の結果として後方から来て接触した自転車運転手は、転倒もせずに走り去り、乗客にもけがはなかったなど、事故によって具体的に安全が害されたわけではないこと、などの消極的な事情も認定されています。

 また、X側としても、事故直後の報告はしなかったものの、帰社後に事故報告をし、事故現場に戻って警察の実況見分を受けるなど、それなりの対応をしていること、Xはそれまで無事故だったこと、などの事情が認定されています。

 このように、XYの事情を比較し、更新拒絶の合理性が否定されました。解雇権濫用の法理の合理性(労契法16条)と同様の構造です。

4.実務上のポイント

 更新の期待の判断構造がシンプルに整理された判決です。

 すなわち、どのような判断枠組みで(1)、どのような事情を重視して(2)、更新の期待が評価されるのか、もし更新の期待が認められた場合、更新拒絶の合理性はどのように評価されるのか(3)、という構造です。

 定年後再雇用やパートなど、有期契約者を管理する際の参考にしてください。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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