見出し画像

労働判例を読む#431

【函館バス(仮処分)事件】(函館地判R4.4.1労判1269.32)

※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 本事案は、労働組合Xの委員長Kが会社Yを定年退職した後のXからの団体交渉の申し入れをYが拒んできたことから、XがYに対し、団体交渉に応じるように求めた事案です。裁判所は、Xの請求を認め、Yに団体交渉に応じるように命じました。

1.労組法上の労働者性
 労働法上、誰が「労働者」に該当し、労働法上の権利義務の帰属主体になるのか、については、昔から議論されてきた問題です。使用者に従属する立場にあるのかどうかが基本であり、契約上の形式的な文言などに必ずしも拘束されず、その勤務実態を重視して判断することになりますが、「労働者」を保護する労働法にも様々な制度があります。
 現在は、どのように労働者が保護されるのか、という制度ごとの趣旨に基づいて判断する、というのが裁判所の傾向です。
 この観点から見た場合、一般論としては、本事案で問題とされる労組法上の「労働者」の方が、労基法上の「労働者」よりも広いと言われます。団体交渉によって労働条件を改善することが期待できるかどうか、という労組法の考え方に基づくと、本事案のように退職した従業員も「労働者」と認められるべき場合が広く認められるからです(例えば、退職者も含めた職場環境の改善など)。
 特に、退職者も労組法上の「労働者」という点は、広く認められてきた考え方であり、この意味で本判決の結論は広く受け入れられると思われます。

2.実務上のポイント
 Yは、Xが登記上の代表者をKにしていなかった点も根拠としています。
 しかし裁判所は、代表者を登記するのは会社との関係のためでなく、実際、Yも当初はKを代表者として扱っていた、等として、この主張も否定しています。
 このように、退職者も含むことになるなどと、労働組合の組合員となるべき「労働者」の範囲が曖昧となっていくため、会社としては労働組合との交渉がやりにくくなると感じるでしょう。
 しかし、例えば「ユニオン」など、会社横断的な社外の労働組合に従業員が加盟すると、そのユニオンは交渉当事者となり得ます。誰が労組法上の「労働者」であり、どの労働組合が交渉当事者となるのか、という点については、(もちろん、検討の結果、否定されるべき場合もあるでしょうが)会社にとって否定しにくい問題です。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?