労働判例を読む#244

【学校法人奈良学園事件】奈良地裁R2.7.21判決(労判1231.56)
(2021.4.2初掲載)

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 この事案は、大学Yの経営難や学部再編に伴い解雇・雇止めされた教員Xら7名が、解雇・雇止めを無効と主張した事案です。裁判所は、定年前の教員4名(X1~X4)と、定年後有期契約を締結していた教員3名のうち1名(X5)について、解雇を無効としましたが、残り2名(X6、X7)について、更新拒絶を有効としました。
 ここでは、X6、X7とX1~X4の判断を分けたポイント(下記1)、X6、X7とX5の判断を分けたポイント(下記2)について検討します。

1.有期契約者の雇止めと整理解雇
 この点を特に注目する理由は、X6とX7の雇止めの合理性(労契法19条本文)の判断と、X1~X4の解雇の合理性(労契法16条)の判断で、結論が逆になった理由が必ずしも明確でないからです。
 本題に入る前に、先立って検討されたX1~X4の解雇の有効性、すなわちいわゆる整理解雇の4要素に関する裁判所の判断を概観しましょう。
 ①人員削減の必要性については、学部廃止に伴う「(当該学部)教員の過員状態の解消という人員削減の必要性自体」をみとめつつ、「(当該学部)教員を削減する必要性」は高くない、と判断しています(労判1231.83左(2)末)。
 ②解雇回避努力については、異動先となり得る学部に実際に異動が内定していた教員3名のうち2名が他校へ転出し、Xらの中から補充する余地もあること、給与や賞与の削減などの手段が検討されていないこと、などから、希望退職の募集、事務職員や初・中等学校の教員への配置転換の打診など、解雇・雇止めを「回避するための努力」はしているものの、「解雇回避努力が尽くされた」と評価できない、としています(同84左(3)末)。
 ③人選の合理性については、上記②と同様、特にX1~X5の他学部への異動可能性があるのにその機会を与えていない点を強調し、人選の合理性を否定しています(同84右(4)末)。
 ④手続の相当性については、上記②と同様、特に給与や賞与の削減などの手段を団交の場で検討していないこと、などにより、「本件組合等との間で協議をしているとはいい得る」としつつ、「本件組合等との協議が十分に尽くされていない」と判断しています。
 この4要素の判断について、先に問題点を指摘すると、①の「教員の過員状態の解消という人員削減」と「教員を削減」の違いがよく分からない点、③④が、結局は②の切り口を変えただけで、特に固有の事情を指摘しているように見えない点、が挙げられます。すなわち、整理解雇を無効とする理由について、かなり限られた事情だけが強調されている状況なのです(同85左下(5)末)。
 もっともこの点は、本来Yの側が、経営合理化の必要性やそのための経営判断の内容等も含め、より詳細に分析して提示し、議論するなど、より積極的に事実を提示し、議論を深める必要があるのに、それが不十分だったので、裁判所の判断も限られた事情に基づいて行われた、という評価も可能でしょう。つまり、4要素それぞれを十分議論して内容を深めるだけの事情がそもそも足りなかった点に、構造的な問題があり、このことこそYの主張の弱さの原因だったと言えるかもしれません。
 さて、本題です。なぜ、これだけの事情しかないのに、しかもX1~X5の解雇の合理性が否定されているのに、X6とX7の雇止めの合理性は肯定されたのでしょうか。
 たしかに、裁判所は❶X6、X7は定年後再雇用の有期契約者であり、人員削減の場面で有期契約者を優先的に雇止めする取扱いに合理性があること、❷X6、X7は、退職金を受領していて、契約も1年の有期契約であり、既に1回~2回契約更新もされたことから、雇止めによる経済的打撃や雇用継続への期待は大きいとは言い難いこと、をその根拠としています(労判1231.86左下「ウ」)。
 このうち❶は、上記③の要素に関するものにすぎません。しかし、上記のとおり③は②④と重なっていますから、❶は③の合理性を正面から肯定するとともに、②④の合理性を補強する意味がありそうです。
 次に❷が4要素にどのように関わるのかはよくわかりませんが、①に関して言えば、①では会社側の事情が主に検討されていますが、❷は従業員側の事情を検討しています。議論がかみ合っていない、というよりも、会社側の事情と従業員側の事情を比較考慮して総合判断する、という一般的な判断枠組みが示された、と評価できるでしょう。同様のことは、②④についても言えそうです。Xらの解雇を回避するために、手続としても十分検討した、と評価されるためのハードルが、❷によって、すなわち従業員側を保護する必要性が低いことによってその分下がる、と整理できそうです。
 このように見ると、整理解雇の判断も他の解雇の場合と同様、会社側の事情と従業員側の事情を比較して両者のバランスを取る(総合判断する)、という判断枠組みを前提にしていると思われます。

2.有期契約の契約期間
 次のポイントは、同じ定年後再雇用であり、同じ有期契約であるのに、X5とX6・X7で判断が逆になった点です。しかも裁判所は、X5の無期契約者である旨の主張を詳細に検討してわざわざこれを否定したうえで、けれどもX6・X7と異なる結論を導いています。
 このポイントは、主に2つあります。
 1つ目は、技術的な理由ですが、X5の契約期間が5年と認定された(雇用条件通知書に明記されていた)のに対し、X6・X7の契約期間が1年と認定された点です。すなわち、X5の退職は5年の契約期間中の問題なので、雇止め(労契法19条)ではなく解雇の問題となり、しかも有期契約ですから労契法16条ではなく17条の問題です。17条は、期間満了が定まっているのにわざわざ途中で解雇する場合ですから、16条よりも解雇の有効性を認めるためのハードルが上げられています(合理性ではなく「やむを得ない事由」が必要です)。つまり、同じ解雇でもX1~X4よりハードルが高いのだから、X1~X4で解雇が無効であれば、X5の解雇が無効になるのは当然のことになるのです(同86左「イ」)。
 2つ目は、実態の問題です。すなわち、X5は学長の特命を受けた学部再編検討のメンバーであり、定年後再雇用の際もX6・X7と異なり特別の手当が毎月10万円支給されるなど、Yの中でより重要な役割を果たしていました。雇止めの合理性を判断する際に、当該従業員の担当する業務が補助的なものにとどまるか、基幹的で重要なものかが考慮されることがありますが、これと同様の考慮がされたと評価できます。すなわち、X5の果たしてきた役割の重要性を考えれば、X5の期待の保護の必要性がより高く、そのような背景も裁判所の判断の背景に控えているように思われるのです。

3.実務上のポイント
 職種限定合意がある場合に整理解雇の4要素が適用されるのかについて、特に解雇回避努力が観念できないとして否定的な見解もあったようですが、一方的な人事権の行使で異動を命ずることができなくても職種転換を打診することは可能ですから、職種限定合意がある場合にはそれ相応の解雇回避努力が考えられます。したがって、最近では整理解雇の4要素の適用は認めつつ、そのあてはめの段階で職種限定合意の影響を考慮する裁判例が多いようです(同59上(3)参照)。
 ところで、X5の5年間の有期契約は、定年後再雇用の場合の構造的な問題を暗示しています。
 それは、60歳定年後65歳までの5年間は多くの場合1年ごとの有期契約であって、その従業員としての地位が不安定である反面、高年法によって65歳までの雇用確保措置をとることが会社の義務とされ、65歳まで働くことができるという従業員の期待が法的に高められています。
 この、高められた期待を反映させる理論構成としては、X5のように有期契約の契約期間を5年とする理論構成(但し、その旨の当事者の合意が必要)と、労契法19条の更新の期待が5年間は原則として認められるとする理論構成が考えられます。
 この事案で裁判所は、このような問題意識について言及していませんが、高年法による65歳までの雇用確保措置の必要性がX6・X7にどのように影響しているのかについても、考えておく必要がありそうです。

※ 英語版

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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