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労働判例を読む#480

※ 司法試験考査委員(労働法)

今日の労働判例
【Uber Japan ほか1社事件】(東京都労委命令R4.10.4労判1280.19)

 この事案は、ウーバーイーツの配達パートナーらの結成した労働組合Xが、ウーバーイーツの関連会社らYらを相手に団体交渉を求めたところ拒絶されたために、労働委員会に救済命令を求めた事案です。都労委は、Xの主張を概ね認め、Yらに団体交渉に応じる旨、等を命じました。

1.労働者性
 Xの組合員である配達パートナーたちが、労組法上の「労働者」に該当するかどうかが、最大の論点です。都労委は、これを肯定しました。
 ここでは、従来の裁判例などで多く用いられてきた判断枠組みと同様の判断枠組みが用いられました。
 すなわち、①事業組織への組み入れ、②契約内容の一方的・定型的決定、③報酬の労務対価性、④業務の依頼に応ずべき関係、⑤広い意味での指揮監督下の労務提供・一定の時間的場所的拘束、⑥顕著な事業者性、等を判断枠組みとしたのです。
 そのうえで、本事案はこのいずれにも該当する、ということが労働者性の理由とされました。
 しかし、①~⑥の全てに該当する、という認定には、少し無理があるようにも思われます。この点は、労働判例誌の同判決の前に掲載されている論文(専修大学教授石田信平氏「プラットフォームワーカーの労働者性」労判1280.5)でも具体的に指摘されている点ですが、特に、①については、週40時間以上配達を行っていたのは、配達パートナーの7%しかいないことや、ウーバー以外にも配達を行うマッチングの機会として出前館やmenuなどもあること、④については、アプリやスマホをオフにすれば、ウーバー側からの配達リクエストが届かない状態になり、リクエストを拒否する(したがって、悪評価がついてしまう)リスクが無くなること、⑤については、アプリやスマホをオン・オフすることに何ら拘束がないこと、などが指摘されます。
 このように整理すると、1つの見方としては、労働者性が否定されるべきであった、という評価も可能です。
 しかし、それでも労働者性が肯定されるべきである、という評価もあり得るところです。
 その場合、①~⑥すべてが満たされるとは言えない、という問題提起にどのように答えるのか、が問題となります。
 1つ目の回答は、①~⑥は、全てが揃わないと労働者性が認められない、という「法律要件」のような性格のものではなく、あくまでも議論を整理するための「判断枠組み」「判断要素」にすぎず、いくつか満たされないものがあっても、総体的に評価して、労働者性が認められるかどうかが判断されるからである、仮に①④⑤が満たされないとしても、総体的に評価すると「労働者」として保護すべき状況にある、という理論構成です。例えば、「高知県公立大学法人(第2)事件」(高知地判R3.4.2労経速2456.3)では、雇止めの有効性が争われた事案で、「整理解雇の4要素」と同様の判断枠組みが用いられました。この合計4つの要素のうち、4つ目の手続の相当性について、会社側に有利に評価されたものの、その他の3つの要素は従業員側にとって有利に評価され、最終的には全体として従業員側にとって有利に評価(雇止め無効)されました。
 2つ目の回答は、別の判断枠組みを立てる、という理論構成です。例えば、石田教授の論文では、❶他人労働力の利用(就労の非代替性)、❷経済的依存性、❸プラットフォーマーによるコントロール、という3つの判断枠組みが提唱されています。
 この2つの回答のいずれであっても、結局、どのような視点から評価すべきなのか、という目的や評価軸が重要になってくるように思われます。この点、石田教授の論文では、憲法28条や労組法の目的、「資本家と労働者階級との格差を是正」すべき状況かどうかを、評価軸に定めているようです。すなわち、配達パートナーは、自分の労働力(しかも、他の者が容易に代替できてしまう)を金銭に換えていることから「労働者階級」に位置付けられるので、格差是正のために労働組合としての活動や交渉が必要、という観点で考えることになるでしょう。
 拘束は厳しくないのに、経済的には弱い立場にある、という状況を、労働者性の認定の観点から、どのように整理し、評価するのか、そもそも、労組法によって規制すべき関係なのか、など判断が分かれうるところです。今後、この事件がきっかけにどのように議論が深化していくのか、注目されます。

2.実務上のポイント
 本事案ではさらに、ウーバーイーツグループの会社全体について、使用者性(交渉の当事者となるべきかどうか)が認められる、と判断されました。
 飲食物を宅配し、代金を精算し、配達パートナーにも配分する、という一連の流れを、複数の会社が分担している、という点を見れば、法人格を超えて、グループ一体のものとしてとらえるべきである、という肯定的な評価も可能です。
 けれども、法人格を分けて業務を分担していることにも、それなりに合理性があり、不当な目的で法人格を濫用したり、実態のない法人格を作ったわけではないでしょうから、従前の「法人格の濫用の法理」のカバーする領域を超える問題であり、全体について使用者性を認めるべきではない、という評価もあり得ます。
 この点も、今後の動向が注目されるポイントです。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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