労働判例を読む#189

「国・平塚労基署長(旧ワタミの介護株式会社)事件」東京地裁H30.5.30判決(労判1220.115)
(2020.9.24 初掲載)

 この事案は、介護施設の職員Xが、ハラスメントなどによってうつ病になったとして労災を申請したところ、労基署Yがこれを否定したため、裁判所にYの判断の取消しを求めた、という事案です。
 裁判所は、Xの主張を否定しました。

1.判断枠組み
 この裁判所が示した判断枠組みは、既に多くの裁判所で採用されているもので、特に目新しいものはありません。ここでは、厚労省の定める労災認定基準が、一般的に、労災認定の判断枠組みとして採用され、そこで示されている判断枠組みの中でも、特に、業務上のストレスを与えるべきトラブルや事象があったかどうか、そのストレス強度が、労災認定基準の定める「強」「中」「弱」のいずれに該当するか、が問題とされています。
 このように、厚労省などの行政基準が、裁判上も判断枠組みとして採用されることは、特にその行政基準が科学的に十分検討されたものである(最近、この点が特に問題となった事案をあまり見かけなくなりましたが)限り、一般的に認められる状況にあります。
 実務上は、厚労省などの示す行政基準を十分理解することが、重要です。

2.実務上のポイント
 本事案で特に注目するのは、事実認定です。
 Xは、30近いエピソード(腐ったものを食べさせられた、規則違反の行為を強要された、トラブル対応などを強要された、など)を主張しました。
 これについて、裁判所は、Xの供述の不自然さや、他の証言・それぞれの状況などを1つひとつ丁寧に認定しています。その結果、多くの事実について、そもそもXの主張するような事実自体が存在しないと認定し、存在するものについても、Xの主張するほどストレスの大きいものではない、と評価しています。
 ここで、Yの主張(=会社側の主張)の裏付けとなっているのが、詳細で体系的な介護記録などの業務上の記録です。Xの主張するエピソードの多くは、トラブルや違法行為など、そのきっかけや背景事情が非常に重要なものですが、その多くが、会社側の記録に全く記録されていないことから、トラブルや違法行為をきっかけにXがハラスメントを受けたり、違法な業務をようようされたりすることも、認定できない、というパターンの認定が、多く見受けられるのです。
 このように、単に当事者の記憶に頼るのではなく、日報や業務報告など、問題になりうる事象は適切に記録化する運用を、普段から日常的に徹底しておくことが、顧客サービスの品質を高める(担当者間での情報共有など)だけでなく、本事案のようなトラブルリスクに対応するためにも、有効であることが、本事案が示してくれました。

労働判例_2020_06_#1220

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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