労働判例を読む#218

【地方独立行政法人山口県立病院機構事件】山口地裁R2.2.19判決(労判1225.91)
(2021.1.14初掲載)

 この事案は、有期契約社員として10年以上勤務してきた看護師Xが、5年を超える有期契約が無期契約に転換される制度導入の際、5年目の更新を拒絶された事案で、裁判所は、Xが病院Yの有期契約社員であることを認めました。

1.雇止めの有効性

 裁判所は、まず、労契法19条の更新の期待がある、と判断しました。

 これは、5年を更新の上限とする規定が雇用契約に入るようになっても、更新の期待は消滅しない、というのが根拠です。もちろん、前提として既に更新の期待が発生しており(臨時的・季節的な業務でなく恒常的な業務を、自動的に契約更新しながら継続してきた、など)、最後の更新の際に更新の期待を失わせる特段の事情が無かったことも考慮されています。

 この事案では、結果的に更新の期待が肯定されましたが、更新の上限規定自体は無効とされていないことや、更新の期待を失わせる事情がなかった点を指摘されていることから見ると、更新を最後とすべき合理的な事情が存在すれば、最後の更新として更新打ち切りが認められる可能性も否定できないことになるでしょう。

 実際、「学校法人近畿大学(任期付助教・雇止め)事件」(大阪地判R1.11.28労判1220.46)は、7年目までの更新の期待を認めつつ、8年目の更新の期待の消滅を認めた事例で、この事案とは逆に、最後の更新であることの合理性が認められた事案です。

2.実務上のポイント

 裁判所は、次に、客観的合理的理由・社会通念上相当がない、と判断しました。

 これは、更新の期待があることによって労契法19条本文の検討がされましたが、解雇権濫用の法理と同様のその判断枠組み(労契法16条)が検討されたのです。

 特に注目されるのは、更新するかどうかの判断のために、合理的で客観的な基準がなく、主観的で恣意的な手続きとなっていることが重視され、判断過程に合理性が欠ける点が、根拠とされている点です。

 もちろん、実際の評価も、例えばXは人事異動の内示を断ったことなどを根拠にすることは、異動受諾を検討する機会を与えるという趣旨から、合理的でない、など、最後の更新とする決定内容の合理性も問題にしています。

 けれども後者は、あくまで補助的なもので、「なお念のため」検討されたにすぎません。

 つまり、解雇(更新拒絶)の判断プロセスが不合理であれば、それだけで解雇無効(更新拒絶無効)になることが示された事案、と評価できるのです。

 実務上、解雇や更新拒絶を判断する際には、その判断基準を客観的・明確に定め、プロセスを透明化するなど、適切な制度が必要であることが示されました。特に、有期契約の管理が必要な会社では、プロセスの合理性を確認しましょう。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

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