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労働判例を読む#387

今日の労働判例
【摂津産業開発事件】(大阪地判R3.3.26労判1259.55)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、ゴルフ場のレストランで勤務していたXが、勤務態度不良を理由に解雇され、Xが会社Yに対し、解雇の無効の確認などを求めた事案です。裁判所は、解雇を無効としました。
 なお、Xは不当解雇を理由に損害賠償も請求していたところ、裁判所は、解雇理由の中には合理的なものもあるため不当解雇ではないとして損害賠償を否定しましたが、この点は検討しません。

1.事実認定
 まず注目されるのは、勤務態度不良を裏付ける5つのエピソードに関する、裁判所の事実認定です。
 裁判所は、5つのエピソードのうち、3つのエピソード(①無駄話が多い、③メニューを減らす、という業務指示への違反、④フロアと調理場の掛け持ち、という業務指示への違反)については、エピソード自体を否定しました。また、2つのエピソード(②女性従業員のいじめ、⑤勤務時間中の飲酒)についても、エピソードの存在は認めましたが、その態様はXの主張するほどのものではない、と判断しました。
 特に、②いじめに関しては、被害女性従業員の証言を裏付ける事実や証拠が乏しく(防犯カメラに写っていると言いながら映像がない、防犯カメラの台数が実際よりも多く供述した、など)、判決文を読むと、被害女性が話を「盛っている」と受け止められたかのようにも見えます。また、④指示違反についても、その根拠となるべきLINEの会話の様子を見ると、Xが掛け持ちを命じられた日に出社しなかったのは客が少ない(客があまりにも少ないと、従業員に出社させないことが度々あったようです)からであり、むしろ掛け持ちを最終的には受け入れていたように見えることが、判決の理由となっています。
 このように、特に会社側と従業員側で証言が食い違う場合には、両者のいずれが合理的であるかを、証拠や事実、さらに前後の文脈や状況などから1つ1つ検証されます。もしかしたら、Yが主張するようなエピソードが本当にあったのかもしれませんが、もしそうであれば、十分な裏付や合理性がない状況で、裁判所には一種の誇張と受け止められたのです。
 さらに気になるのは、改善を促すような注意や指導がされた様子がないことです。問題のある言動に対し、適切に注意や指導を行って改善を促し、それでも改善されない、というプロセスを踏むことが、多くの解雇事例でポイントとなっています。労務管理上、このようなプロセスにも留意しましょう。

2.実務上のポイント
 さらに裁判所は、休憩時間がなかったとするXの主張を否定しています。
 この点も、休憩時間に関する労務上の管理が全くされていなかった状況で、本来であれば、Yとして休憩時間を与えていたことが裁判所に否定されてもおかしくないところですが、客の少ない比較的暇な職場だったようで、そのような状況から十分休憩する時間はあった、と認定しました。
 労務管理の観点から見た場合、休憩時間について、たまたまこの事件では労務管理が不十分であっても会社の主張が認められました。ところが、比較的暇な職場だった、という事情がいつも存在するわけではなく、むしろ休憩時間の有無や長さがよりシリアスに問題になるのは逆に、とても忙しい職場の場合が多いでしょう。そのような場合には、この判決のように会社を救う要素がありませんから、結論が逆になってもおかしくありません。
 やはり労働時間の面でも、トラブルになった時にちゃんと説明責任を果たせるような管理を行うことが重要です。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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