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労働判例を読む#342

今日の労働判例
【ELCジャパン事件】(東京地判R2.12.18労判1249.71)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、外資系企業Yの業務縮小・組織変更に伴い、業務遂行能力について低い評価を受けていた従業員Xが、降格や配置転換を受けたことに関し、人事考課の合理性、人事異動の合理性等を争った事案です。裁判所は、Xの請求をいずれも否定しました。

1.人事考課の合理性
 人事考課については、被考課者の業務目標達成度や能力などを詳細に、しかも複数の段階で評価する方法が確立され、実際にそれぞれの過程でそれなりの評価が行われています。
 もちろん、人事考課制度が十分確立していない会社であっても、人事考課の内容が実際の業務遂行状況や能力に応じて適切であることを証明することは可能ですが、そのような方法の他に、本事案のように相当の合理性のある人事考課制度があり、それが適切に運用されている場合には、その制度や運用から人事考課の合理性が認められやすくなる、という方法もあります。
 すなわち、しっかりとした人事考課制度を構築し、運用することで、人事考課の合理性を証明しやすくすることができるのです。

2.実務上のポイント
 とは言うものの、人事考課が悪い従業員に対して、どのような処分も簡単にできる、というわけではありません。Yは、従前のXの処遇を相当なレベルで維持しつつ、与える業務も、どんどん限定的になっていく中で合理性が何とか認められそうな業務を検討し、提供しました。
 適切な人事考課は、このような配慮の合理性を基礎づける意味でも重要です。
 会社の人件費削減や組織再編に伴う問題は、整理解雇のように人員を一方的に減らす場合、就業規則の変更のように処遇を低下させて人件費を減らす場合の他、事業の変更や組織変更と人事異動によって(多くの自主退職を前提に)組織を小さくする場合、等様々な形で表面化します。
 けれども共通して言えることは、従業員に不利益を負わせることの合理性が十分説明でき(本事案では人事考課の合理性など)、プロセスとしても合理性がある(本事案では、配転や人事考課など機会ごとにフィードバックや苦情対応が行われていた点など)ことが重要です。法的な構造の違いを理解することも重要ですが、共通するポイントを理解することも重要です。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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