労働判例を読む#177

「北海道・道労委(社会福祉法人札幌明啓院〔配転〕)事件」札幌地裁R1.10.11判決(労判1218.36)
(2020.8.13初掲載)

 この事案は、救護施設Xの生活指導員であり、労働組合の書記長であったCを、介護職員とする配置転換が、不当労働行為であると労働委員会Yによって認定されたため、Xがその取り消しを求めた事案です。裁判所は、Xの請求を否定しました。

1.判決の概要
 ここでは、労組法7条のうちの、1号(不利益取り扱い)と3号(支配介入)に該当するかどうかが問題とされました。
 すなわち、1号のうち「不利益な取り扱い」については、生活指導員の方が介護職員よりも上位にある(したがって、この配置転換は降格に相当する)こと、腰部に疾病のあったCにとって、実際の介護業務はその負担を増加させ、悪化させるものであること、の主に2つの点を理由に、該当すると判断しました。
 さらに、1号のうちの「故をもって」については、Xと組合の関係が敵対的だったこと、人事異動としてみた場合の人選に合理性がないこと、の主に2つの点を理由に、該当すると判断しました。
 さらに、3号の「支配介入」については、1号に関して認定した事実に加え、男性を介護職員にする際には組合と協議するという合意を無視した点も加え、該当すると判断しました。

2.実務上のポイント
 Xは、経営状況が芳しくなく、人員削減の必要性などもあったようですが、その機会にCを介護職員にし、配転の合理性がある、と主張しています。
 ところが、たとえば整理解雇の際にも、解雇対象選定の合理性だけでなく、プロセス自体の合理性も必要であり、組合の協力が無ければ、整理解雇の合理性を確保することが難しい状況です。整理解雇とまでいかず、従業員の処遇の見直しや大幅な組織変更などの場合も、その程度が違うだけで、状況は同じです。
 そのような中で、労働組合と本来協議し、協力すべき問題に至る以前の問題で対立が生じ、解消できず、Xの目的が、いつの間にか組合に負けない、組合を外す、という方向に向かってしまいました。中には好戦的で、本来の問題を一緒に協議し、協力できる関係に持っていくことなど無理、と思わせる組合員がいるかもしれません。会社と組合の当事者だけですべての問題が解決できるわけではないでしょう。
 そのような状況で、1人の組合員の処遇問題で、労働委員会だけでは足りず、裁判所による判決(しかも本判決は控訴されたようです)まで必要、ということは、そこに相当根深い問題がある、ということになります。経営状況が芳しくない状況だからこそ、早く根深い問題を取り除き、労使が協調できる関係を作る必要があり、本判決がその過程として、どのような役割を果たすのか、注目されます。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

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