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労働判例を読む#424

【建設アスベスト訴訟(大阪)事件】
(最一小判R3.5.17労判1268.5)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 本事案は、建設現場でアスベストを吸引し、健康を害したとする作業員やその遺族達、Xらが、国Y1や、アスベスト入りの建材を販売していた業者Y2らなどを相手に損害賠償を求めた事案です。
 裁判所は、Y1に対する請求について、これを否定した2審を破棄し、再審理のために差し戻しましたが、Y2らに対する請求について、これを肯定した2審を破棄し、否定しました。

1.国の責任
 Y1の責任で特に注目されるのは、責任の開始日、すなわち国の過失の認められるのが、昭和50年10月1日とされた点です。これは、2審も同じ判断を示している点です。
 なぜこのときからか、という点については、安衛法がアスベストの規制について、具体的な数値基準を明確に示したのが9月末であり、このときに合わせて、アスベストの利用禁止や制限などの規制も行えたはず、という理由があるようです。
 他方、Y1の責任を負う対象が、安衛法で保護される労働者に限定される、とした2審を、最高裁が否定した点も注目されます。そのうえで、Y1に責任があるのかどうか、再度審理するように2審に差し戻したのです。
 安衛法は、特に労働者の生命や健康、安全などを保護しようとしますが、だからと言って労働者に限定するものでもない、という最高裁の説明は合理的でしょう。しかし、わざわざ安衛法が制定されているのですから、労働者とそうでない者との違いもあるはずです。この点がどのように評価され、ルールとして明確になっていくのか、今後の動向が注目されます。

2.企業の責任
 Y2らの責任で特に注目されるのは、これを肯定した2審の判断を最高裁が否定した理由です。
 それは主に2つあり、1つ目のポイントは屋外の作業である点です。屋外の場合には自然の換気によってアスベストの濃度が薄くなる、という点が大きな理由になります。そして2つ目のポイントはアスベストに関わる作業時間の短さです。当然、吸入量も小さくなります。
 この説明を見ると、屋外の作業であればそれだけで自動的に責任が否定されるのではなく、アスベストが大気中に拡散するすぐ間近に顔を近づけて長時間作業をしているような場合には、責任が肯定される余地がある、と評価できるでしょう。規範として、屋外の作業の場合に責任が否定される、という判断を示したのではなく、事実認定とその評価の問題として、当該事案としては責任が否定される、という判断を示したもの、と評価できます。

3.実務上のポイント
 国の場合には、規制を通して健康や安全に対して配慮することになるのに対し、企業の場合には、職場での実際の労働環境の整備を通して配慮することになります。国の場合にも、安衛法の規定(労働者を対象とする規制という性格を反映したもの)だけで責任を免れるわけではないのですから、企業の場合には、規制がどうなっているのか、という観点だけでなく、実際の労働環境がどうなっているのか、という事実を直視し、それぞれの職場に応じた対応を考える必要がある、と評価できるでしょう。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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