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労働判例を読む#578

今日の労働判例
【アメリカン・エアラインズ事件】(東京地判R5.6.29労判1305.29)

 この事案は、アメリカの航空会社の日本支社Yで雇われていた従業員Xが、コロナ禍での業績悪化などによって、定年後再雇用されなかった事案です。
 Xは、これまで数多くの従業員が再雇用されてきたことなどを理由に、従業員の地位にあることの確認などを求めましたが、裁判所はXの請求を否定しました。

1.就業規則
 ここで注目されるポイントの1つは、労契法の規定や権利濫用などの議論に先立ち、Yの就業規則の規定が詳細に検討されている点です。
 すなわち、まず、60歳定年を迎えても、本人が希望すれば再雇用される、という規定から、Xは再雇用されるべき状態にあるとしつつ、具体的な労働条件は話し合いによって決まるべきところ、話し合いが成立していない、再雇用しない場合の条件の一つ(リストラのために解雇される場合)に該当する、という理由で、Xの請求を否定しています。
 これに対してXは、労契法16条(解雇権濫用法理)や19条(更新拒絶)が適用され、それによれば再雇用拒否の判断が違法である、という主張をしました。
 しかし裁判所は、形式的な根拠として、法律構成上の問題として、定年後の再雇用はいずれにも該当しないことを指摘し、さらに実質的な根拠として、整理解雇の4要素に似た判断枠組みにあてはめてみたとしても、リストラの必要性やプロセスの相当性(例えば、何度も、従業員に任意退職の呼びかけや、経営状況の情報共有が行われた)などが認定され、解雇や更新拒絶としてみても合理性が認められる、ということを、非常に詳細に認定し、Xの主張を否定しました。
 このような裁判所の判断から、2つの点を指摘できます。
 1つ目は、実質的根拠が詳細に検証されていることから、就業規則上の根拠が整っているからと言って、それだけでは足りず、(ここでは、再雇用しないことの)実質的な合理性、すなわち、解雇や更新拒絶として評価されたとしても、違法ではないと評価されるかどうか、問観点からの合理性の検証をすることが好ましい、という点です。
 2つ目は、形式的根拠が最初に問題とされ、就業規則の条文を詳細に検証していることから、逆に言うと就業規則の規定で定年後再雇用を拒絶できない状況になっていると、それだけで、Yの主張が否定された可能性がある、と言える内容の判断であり、就業規則の規定をきちんと検証しておかなければならない、という点です。

2.実務上のポイント
 大きな意味でとらえれば、リストラには、解雇だけでなく、新卒採用停止(従業員の自然減)、更新拒絶、給与削減などの他、本事案のような定年後再雇用拒否も含まれます。要は、財務上の観点から人件費を削減することにつながれば、大きな意味でのリストラと評価されますし、これを労働法の観点から見れば、様々な法律構成・法律上の問題が関係してきます。
 けれども、もちろん、形式的な法律構成や、それに沿った就業規則などの規定、プロセスも重要ですが、実質的にはリストラとしての合理性が十分説明できることが必要であることがわかります。その典型例として、長年の実績があり、経営悪化という、主に経営側の責任で生じた事態での、従業員へのしわ寄せの合理性を判断すべき、厳しい判断枠組みである「整理解雇の4要素」が、判断枠組みとして活用されることに照らせば、「整理解雇の4要素」を参考に、大きな意味でのリストラの合理性を検証することが考えられます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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