労働判例を読む#226

【加古川市事件】最高裁三小H30.11.6判決(労判1227.21)
(2021.2.4初掲載)

 この事案は、市役所Yの職員Xが、行きつけのコンビニ店員にセクハラをしたことなどを理由に停職6か月の処分を受け、Xが処分の取り消しを求めた事案です。

 1審・2審はXの請求を認め、Yの処分を取り消しましたが、最高裁は、Xの請求を否定し、Yの処分を有効としました(確定)。

1.私生活上の非行

 原則として、従業員による職場を離れた私生活上での非行に関し、会社は責任を負わず、したがって懲戒処分などの処分を与えることもできません。これが例外的に許されるのは、従業員の私生活上の非行が会社の業務遂行や風評・信頼などに影響を与える場合です。

 これまでの判例・裁判例では、公務員の場合、例えば休日に飲酒運転で交通事故を起こした場合など、行政処分・刑事処分が出された場合に与えられた、懲戒免職などの厳しい処分について、有効とするものが散見されます。

 ところで、この事案ではハラスメントに関し、行政処分・刑事処分はおろか、民事上の責任についても、コンビニ店員やコンビニ側から特に責任追及しない意向が示されており、Yに法的な責任は発生していないようです。したがって、1審・2審が、Yに法的な責任の発生していない点を重視して、Xに対する処分を取り消した判断も理解できます。

 けれども、Yに法的な責任が発生したかどうか、という問題は、Yに不利益が生じたかどうかに関する問題全体の一部にすぎません。

 実際、この事案ではY職員のセクハラ問題としてマスコミでクローズアップされ、Y市長自ら記者会見を開催すべき状況にまで追い詰められました。市の公的な役割から考えると、その公正中立性や信頼性は非常に重要な問題であり、この公正中立性や信頼性が、実際に大きく損なわれてしまったのですから、仮に法的な責任が無くても、Yに現実的に大きな損害が発生したことは間違いありません。

 この意味で、YによるXの処分を有効とした最高裁の判断も理解できるのです。

2.実務上のポイント

 この事案は、最高裁が風評のリスクを重く評価した、という点でも重要ですが、その際注意すべき点は、同じ裁判所でも1審・2審と最高裁とで判断が分かれた点です。つまり、専門家である裁判官ですら評価が分かれる微妙な問題なのです。

 したがって、単に風評のリスクがある、というだけで人事処分を有効と評価したのではなく、法的責任がない事案では、実際に風評リスクが具体化し、風評被害が現実化したからこそ、人事処分が有効と評価された、しかも、解雇まで踏み込まなかった点も評価された、と保守的に評価することが、実務上、安全でしょう。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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