労働判例を読む#181

「東芝総合人材開発事件」東京高裁R1.10.2判決(労判1219.21)
(2020.8.27初掲載)

 この事案は、経営陣への不満から、会社内部の企画や運営に対する不満をぶちまけるメールを社外にばら撒いた従業員Xが、その後、軽作業を命じられ、それに従わなかったことから、譴責処分と出勤停止処分を受け、それでも業務命令に従わなかったことから、解雇とされた事案です。
 裁判所は、会社Yの対応の合理性を認め、Xの解雇を有効と判断しました。

1.プロセス
 この事案は、業務命令に従わないからと言って直ちに解雇せず、警告や処分を繰り返したうえで解雇しています。2回の懲戒処分について、裁判所は単なるペナルティーとしてではなく、あたかも反省と改善の機会を与えるものとして評価しています。
 権利の濫用などが争われる場合には、判断枠組みとして、①従業員側の事情と②会社側の事情が、あたかも天秤の左右の皿のように示され、さらに支点にあたるものとして③プロセスが示されることが多くあります。
 本件も、これと同様の判断枠組みで判断しています。
 すなわち、①東芝グループに約30年勤続してきて、51歳になり転職も難しいという事情があるもの、②業務命令に1年以上従わないXのために、職場秩序が害されているうえに、③それでもYはXに改善の機会を与えてきたのだから、有効とされたのです。
 過去の裁判例では、数十年勤務してきた(その間問題なかった)点を重視して、それまでの貢献を全て無にするほどのことではない、という趣旨で解雇を無効としたものもありますが、本件では③があったことで解雇が有効になった、と評価できるかもしれません。
 いずれにしろ、プロセスが重視される近時の裁判例の傾向が本件でも垣間見ることができます。

2.実務上のポイント
 解雇の有効性が争われるとき、従業員の業務成績が悪い、という労働契約の本来債務の不履行が問題になる場合と、職場秩序を乱し、他の従業員の仕事に悪影響を与えている、という労働契約の付随義務の不履行が問題になる場合があります。前者の方が、契約本来の趣旨に反することが直接的で明白ですので、解雇理由としても合理性が認められやすいはずです。
 本件は、業務命令に従わない、という意味で後者の問題のようにも見えますが、Xは仕事を全くしないでボイコットしていたようですので、本来債務(働く)が全く履行されていなかった、という意味で、前者の問題です。
 契約上、主債務の履行がなければ契約解除も簡単、というわけではなく、例えば家賃の滞納が一回あっただけでは、ふつう賃貸借契約を解除できませんので、それと同様、主債務の履行をする機会を与えなければなりません。その程度や方法が問題になるのですが、本件では、途中2回の懲戒処分と、1年間という期間を与えたことで、それが十分と評価されました。
 1年間は、長いようにも感じますが、例えば人事考課で最低ランクの評価が2~3回されることが、最低でも必要と言われることがあり、その場合には2~3年は必要、ということになりますから、それに比較すれば短い、と評価することも可能です。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

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