労働判例を読む#270

【センバ流通(仮処分)事件】仙地決R2.8.21(労判1236.63)
(2021.7.9初掲載)

YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、コロナ禍で売り上げが大幅に減少したタクシー会社Yが、従業員Xらを整理解雇した事案で、裁判所は整理解雇を無効として、給与の一部の仮払いを認めました。

1.有期契約であること
 この判決は、いわゆる整理解雇の4要素を判断枠組みとして採用しましたが、その内容は一般的な整理解雇の4要素と少し違います。というのも、この事案のXらはいずれも有期契約者だからです。
 有期契約者だと、更新拒絶の形で雇用を解消することが無期契約者よりも容易である、したがって会社にとって人員整理しやすい、という印象があるかもしれません。
 けれども、有期契約者をその契約期間中に解雇する場合には、全く逆になります。すなわち、有期契約者の場合、契約期間満了時であればともかく、契約期間中であれば「やむを得ない事由」が必要であり(労契法17条1項)、無期契約の場合の「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」でないこと(要は「合理性」、労契法16条)よりも明らかに会社にとってハードルが上がっています。
 このようにして見ると、同じ整理解雇の4要素ですが、この事案では非常に高いレベルでの合理性(止むを得ない事由)を判断するために用いられている点に特徴があります。

2.整理解雇の4要素
 実際、整理解雇の4要素が無期契約者の場合よりも非常に厳しく適用されたことが分かります。
 すなわち、整理解雇の4要素は、一般に①人員削減の必要性、②解雇回避措置の相当性、③人員選択の合理性、④手続きの相当性の各要素を総合的に考慮する判断枠組みです。事案によっては3要素だったり5要素だったりしますが、基本はこの4要素です。
 けれども例えば①人員削減の必要性に関して言えば、損益計算書上1か月の収支が約1415万円もの支出超過であり、貸借対照表上約3133万円の債務超過になっていると認定し、人員削減の必要性があったことや、それが相応に緊急かつ高度であることまで認めています。
 しかし、従業員を休業させれば人件費は休業手当の6割の支出に抑えられること、雇用調整助成金を得られること、その他の諸経費も営業を停止すれば相当削減できること、Yの債務は会社関係者が有するもので即時全額の支払いが必要ではないこと、コロナ以前の収益や現在大きな借金のないことからすると銀行などから借金することも考えられること、などから「直ちに整理解雇を行わなければ倒産が必至であるほどに緊急かつ高度の必要性」が無かったと評価しました。
 すなわち、人員削減の必要性は認められるものの、倒産必至ではない、という評価をしています。裁判所は、倒産必至のレベルまで高度な人員削減の必要性を求めているのです。
 また、②解雇回避措置の相当性についても、多くの運転手を休業させ、残業や夜勤を禁止し、取引先に値引き交渉をしていたことを認めつつ、雇用調整助成金や運輸局による臨時休車措置へのサポートなどを活用していないとして、「債務者の解雇回避措置の相当性は相当に低い」と断じています。
 このように、同じ整理解雇の4要素であっても、労契法16条で適用される場合と、この事案のように労契法17条で適用される場合とでは要求される水準に大きな違いのあることが理解できます。

3.実務上のポイント
 会社から見た場合、有期契約者の方が無期契約者よりも、更新拒絶によって比較的容易に雇用関係を終了できると考えている経営者が多いかもしれません。
 しかし、有期契約者を雇用期間の途中で解雇する場合には、無期契約者よりもより高度な必要性や合理性が求められます。もちろん、従業員を整理解雇するような場面を最初から想定して人事制度を設計するものではないでしょうが、運用の段階でこのような誤解を抱いたまま安易な判断をしないように注意しましょう。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?