労働判例を読む#532
※ 元司法試験考査委員(労働法)
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【医療法人佐藤循環器科内科事件】(松山地判R4.11.2労判1294.53)
この事案は、在職中に死亡した従業員Kの遺族Xが、使用者だった病院Yに対し、夏のボーナスの支給を求めた事案です。裁判所は、Xの請求を認めました。
1.権利性
最初の問題は、ボーナスが権利として確定していたかどうかです。多くの裁判例で、ボーナスは会社がその金額を決定するものだから、決定するまでは権利と言えない、という趣旨の判断をしているからです。
けれども本判決は、権利として確定していたと評価しました。それは、長期欠勤していたなどの事情がない限り、月給の1.5ヶ月分が常に支払われていたからです。
ボーナスの権利性が例外的に認められる場合について、参考になります。
さらに、一般的には権利性がないが、例外的に権利性が認められる場合として、昇給・昇格の請求権があります。一般に、昇給・昇格は人事考課などによって決まりますが、経営側の裁量の範囲が多く、何か条件が満たされれば自動的に昇給・昇格しません。したがって、一般的には昇給・昇格の請求権は権利性がないのですが、まれに、一定の条件が満たされれば自動的に昇給・昇格する場合もあり、そのような場合には権利性が肯定され得るのです。
2.在籍要件
けれども本事案では、もう一つ問題がありました。それは、多くの会社で導入されている、ボーナス支給のための在籍要件です。これは、所定の日に在籍している者に限ってボーナスが支払われる、というルールです。そして、Yにも在籍要件が導入されており、Kはこの所定の日よりも前に死亡したため、在籍要件が満たされない状態でした。したがって、ルールを機械的に適用すればXの請求は否定されるはずでした。
けれども本判決は、解釈によってXの請求を肯定しました。その理論構成を確認しましょう。
まず、在籍要件のルール自体は合理性があり、有効と評価しました。この点だけを見ると、Xの請求が否定されてしまいそうです。
けれども次に、病死の場合には退職時期を自分で選んだわけではない(所定の日を超えて生存することを選べるわけではない)こと、ボーナスの趣旨(給与の後払としての性格や功労報償としての性格)に照らすと、所定の日近くまで働いていたならば、ボーナスに対する期待が合理的なこと、を指摘し、公序良俗(民法90条)を根拠にボーナスの支払請求を認めました。
3.実務上のポイント
このように整理すると、上記1・2いずれも、本来であれば認められないところを例外的に認めた結果、請求が認容されたことになります。
同様の判断が常になされるという保証はありませんが、裁判所が機械的な判断ばかりするわけではないことがわかる裁判例です。
※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
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