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労働判例を読む#376

今日の労働判例
【清流出版事件】(東京地判R3.2.26労判1256.78)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、出版社Yに勤務する従業員Xが、協調性のない度重なる言動から、複数回、業務命令書によって改善を指示されたが改善せず、退職勧奨にも応じなかったことから解雇された事案です。Xは、解雇が無効であるとして、従業員としての地位にあることの確認などを求め、裁判所もこれを概ね認めました。

1.解雇の有効性
 業務改善の指示や退職勧奨も行ったうえで解雇が行われており、解雇のプロセスとして見た場合、それなりに合理性が認められるようにも思われます。
 けれども裁判所は、Yが解雇事由と主張する事情1つ1つについて検討し、ある事情はその存在が証明されない、ある事情はその程度が悪質でない、などとして、軽微な問題行動を僅かだけ認定し、解雇の合理性を否定しました。
 特に、Xの問題行動のいくつかが、その存在が証明されないということで否定されている点が注目されます。
 本事案では、Yが全社員に対して刑事捜査に協力するように働きかけたことが問題である旨のメールを、Xが全社員に送付したことがきっかけとなり、Xの同僚5人が連名で「嘆願書」をYに提出し、その中でXの解雇をYに求めていることが、Yの対応のきっかけとなっています。嘆願書の記載や、同僚の証言などを見れば、Xのちょっとした言動が職場の人間関係を悪くしてきたようであり、従業員のやる気や職場環境を考えると、Yの経営陣が慌ててXの管理を強めた様子がうかがわれます。
 けれども、もし本当にXの問題行動があったのならば、Yは、問題行動をそのすぐ後に指摘して注意し、改善を求め、記録に残しておくべきでした。記録化されていない中で、関係当事者の記憶に基づく証言だけであれば、これを否定するXの証言との信用性の程度の比較になり、「そのようなことがあったかもしれない」という感想めいた感情を抱かせることができたとしても、「確かにそのようなことがあったようだ」という証明の程度に達することはなかなかできないことが、この判決から理解できます。

2.実務上のポイント
 さらに言えば、他の従業員から連名の嘆願書が出されて初めて事の重大さに気づいた、という点からうかがえるのが、Yでの労務管理の問題点でしょう。
 もちろん、何でも管理すればいいものではなく、管理しすぎることがかえって問題を複雑にする場合もありますし、管理しすぎることで職場や会社の活気が失われることもあるでしょう。
 けれども、職場環境について従業員がどのような不満や悩みを抱えているのかを、常に把握するように務めるなど、何らかの対策を講じていれば、Xの言動に周囲の多くが不満を抱いていて、それが相当根深くなってしまったような事態は避けられたかもしれません。
 労務管理の在り方として、考えさせられる裁判例です。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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