労働判例を読む#273

【ハマキョウレックス(無期契約社員)事件】大地判R2.11.25(労判1237.5)
(2021.7.16初掲載)

YouTubeで3分解説!
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 この事案は、有期契約者だったXらが労契法18条に基づいて「無期転換」されたことから、契約内容が正社員と同様になったと主張して、会社Yに対して正社員と同様の賃金などの支給を求めた事案です。
 なおYは、無期契約者と有期契約者の処遇のうち、無事故手当・作業手当・休職手当・皆勤手当等の相違に関し、同一労働同一賃金に反し、違法と判断した著名な最高裁判決後に、これらの手当の相違を是正していました。他方、最高裁が判断しなかった住宅手当・家族手当・賞与・定期昇給・退職金の相違はそのまま維持されていたようです。つまり、Xらは違法とされなかった部分(各差額9万円強)について、今度は「正社員として」差額の支給を求めたのです。
 裁判所は、Xの請求を否定しました。

1.無期転換
 労契法18条は、5年以上有期契約が更新された場合には無期契約に転換できることが規定されています。この事案で問題になったのは、無期転換されるかどうか、という「要件」の問題ではなく、無期転換されるとどうなるか、という「効果」の問題です。すなわち、Xは、正社員と同一の処遇を求めました。
 他方、この「効果」について、労契法18条1項後段は次のように記載されています。
『この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。』
 つまり、別段の定めがない限り有期労働契約の条件と同一の内容になります。そこでXは、正社員就業規則がこの「別段の定め」に該当すると主張しました。
 しかし裁判所は、労使協議の中でYが明確に「正社員にはできない」と明言していたことなども踏まえ、Xの主張を否定しました。
 仮にこのようなやり取りが無ければ、正社員就業規則がこの「別段の定め」に該当すると評価されるのかどうか、が問題になります。
 しかし、多くの会社では、正社員と有期契約者の勤務形態や手当・諸条件が異なります。しかも、多くの場合就業規則を定めなければならないでしょうから、正社員と有期契約者では異なる就業規則が存在するでしょう。そうなると、Xの主張のとおり「別段の定め」に正社員就業員規則が該当すると評価されるなら、常に有期契約者の契約条件が正社員と同一になってしまいます。けれども、そうなると原則は有期契約と同じ条件とし、例外的な場合に限りそれと異なる条件(特に、正社員と同様の条件)になる、とする法の規定に反し、原則と例外が逆になってしまいます。
 このように、会社の実態に照らせば正社員就業規則があればそれだけで当然に「別段の定め」があるという解釈は、法の趣旨に反する解釈であると評価できます。この事案で、判決は労使協議の過程で「正社員にはできない」との趣旨の発言を問題にしていますが、本判決がこのような発言に言及したのは、この事案での解決のためと評価すべきでしょう。すなわち、正社員就業規則がある程度では「別段の定め」は認められないが、これを覆す「別段の定め」どころか、むしろ逆の事情(わざわざ「正社員にはできない」と発言した事実)が存在する、という形で裁判所の判断を補強するために言及された、と考えられるのです。

2.実務上のポイント
 Xらはさらに、Xらに対して正社員就業規則ではなく契約社員就業規則を適用することは、正社員より明らかに不利な労働条件を設定するもので、均衡考慮の原則(労契法3条2項)や合理性の要件(同7条)を欠く旨主張しています。
 これに対して裁判所は、正社員と契約社員の間では、①職務の内容は同一であるが、②変更の範囲は異なる(出向や異動の可能性の有無、人事考課制度の違い、等)ことを指摘したうえで、正社員と契約社員の間で均衡が保たれていれば足りる、という判断枠組みを示し、結論的にXの主張を否定しました。
 ここでの議論は、いわゆる「同一労働同一賃金」に関する旧労契法20条・パート法8条の均衡待遇のルールと同じ議論です。すなわち、①職務の内容、②変更の範囲、③その他の事情によって合理性を判断すること、①②が同一であればパート法9条の均等待遇のルールが適用されるが、そうでなければ均衡待遇のルールが適用されること、と同様の構造での判断がされているのです。
 このようにして見ると、この点のXらの主張は、根拠条文が旧労契法20条から他の条文に移ったものの、旧労契法に関する以前の最高裁判決が判断しなかった点について、再度判断を求めたことと同じことになります。言うなれば、最高裁が敢えて判断を示さなかった点について、再度、「同一労働同一賃金」についての判断を求めたが、結局、合理性が認められたことになります。
 その意味で、以前の最高裁判決の裏付けをした、という意味もあるように思われます。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

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