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労働判例を読む#388

今日の労働判例
【ロジクエスト事件】(東京地判R2.11.24労判1259.69)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、運送会社Yと業務委託契約を結び、配送業務を行っていたXが、自分は労働者に該当するなどと主張して、契約の打ち切りは違法解雇である、等として損害賠償を請求した事案です。裁判所(地裁ですが、これは控訴事件です)は、Xの請求を否定しました。

1.労働者性
 この事案で特に注目されるのは、労働者性の認定です。労働者性を肯定すべき事情がそれなりにあるにもかかわらず、最終的には労働者性が否定されたのです。もちろん、労働者性を否定する場合の積極的な事情も多く指摘されていますが、ここでは特に、一般的には労働者性を肯定する場合の積極的な事情(労働者性を否定する場合の消極的な事情)について、判決が労働者性を基礎づけない、と評価している点に絞って検討しましょう。
 例えば、仮に週3日以上働くようなシフトが求められたとしても、もともとの募集が週3日以上を前提としていたことから、「諾否の自由」がないとは言えない、としています。「諾否の自由」の無いことが、労働者性を肯定すべき1つの事情とされることがありますから、週3日働くことを断れないのであれば諾否の自由があるようにも見えます。これに対して裁判所は、もともとの募集、という説明をしていますが、これは対等な業務委託契約当事者であっても、契約上の債務として負担している法的な義務、という趣旨の説明と思われます。つまり、一般のビジネス上の契約であっても、債務者は契約に基づく諸債務を負っており、債権者の要求に応じなければならない、というだけでは「諾否の自由」がないとは評価できないのです。
 また、例えばYのロゴ入りのバック、カート、ユニフォームを使用していた点も、円滑な業務遂行を目的としたもの、として労働者性の基礎にならないとしています。この点も、一般の事業者として負う債務として当然あり得ることであり、一般の債務を超えた拘束ではない、したがって労働者性の基礎にならない、と評価できるでしょう。
 また、例えば身だしなみについて注意することが仮にあったとしても、「社会通念に照らして、業務の性質上当然に注意されるべき事柄である」として、労働者性の基礎にならないとしています。この点も、業務委託先のロゴを使って仕事をしている以上、委託元の風評や信頼に配慮するのは当然であり、一般の事業者として負う債務を超えた拘束ではない、したがって労働者性の基礎にならない、と評価できるでしょう。
 また、日曜祝日手当が払われている点も、労働基準法に基づく割増手当を必ずしも意味するものではなく、日曜祝日に仕事を受ける事業者が少ないから単価が上がる場合もあることを考えると、同様に、一般の契約関係と異なる労働契約独自の条件とは言えないでしょう。
 このように、労働者性については、債務者に対する指揮命令に該当するような強制の契機があったとしても、それが労働契約ではない契約としての債務として評価できるレベルを超えたものでなければ、労働者性を基礎づけないのです。

2.実務上のポイント
 労働者性については、相手の指示に従うべき状況(強制の契機)を積み重ね、それが一定程度に達すれば労働者性が認められる、と考えているような裁判例や実務家も見かけます。
 けれども、ここで検討したように、労働契約ではない一般の契約であっても、契約上の債務によって債権者指示やリクエストに応じなければならない場面は数多くあります。もし、そのような事情も全て労働者性の基礎になるとしてしまうと、極端に言えば、個人を相手にする役務提供型の契約の全てが労働契約になってしまいかねません。契約上の債務による強制と、労働契約上の指揮命令権に基づく強制と、いずれも債務の履行に伴うものですから、質的に異なるものではなく、したがって労働者性は、それと対比されるべき法律関係との比較で、労働者としての性格と事業者としての性格、労働者としての性格と理事としての性格、など対比されるべき関係と比較してどちらの要素がより大きいか、という総合判断によって行われるべきものです。
 その意味で、本判決は、労働者性の判断方法について誤解が見受けられる状況にある中で、労働者としての性格と事業者としての性格を比較し、労働者性の方が小さいと評価した具体例と位置付けることができるでしょう。
 労働者性の判断の在り方について、その背景にある考え方も含めて理解しましょう。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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