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労働判例を読む#409

今日の労働判例
【公益財団法人埼玉県公園緑地協会・狭山市事件】(さいたま地判R3.4.22労判1264.57)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、狭山市の公社が運営する動物園に雇われていた飼育業務等をしていた2名の元従業員Xらが、公社の廃止に伴って動物園の経営業務を、公益財団法人である被告Yも含むJVに管理者として委託し、YがXらを雇用した事案です。雇用期間は、当初3年、更新された場合には、その後1年・1年の合計5年とされていました(5年の場合、平成30年3月31日が満了日となる)。Yは、満了日をもってXらを雇止めし、これに対してXらはその無効を主張し(さらに、5年を超えたことになるので無期転換権を行使し)、雇用関係の存在することの確認等を求めました。
 裁判所は、雇用関係が存在することを認めました。

1.更新の期待
 更新の期待は、2段階で評価されています。
 すなわち、①Yとの間で有期契約を締結した当初に、更新の期待があった、としたうえで、②2度目(4年目)の契約更新の際に、更新の期待を否定するほどのことはなかった、としたのです。
 具体的には、①に関し、もともと無期契約であり、業務移管されても雇用継続されるように労使交渉された経緯があることや、雇用期間5年という記載があっても、それが上限とはされていないこと、実際にYが引き続き業務移管継続となった場合にXらの雇用がどうなるのか決まっていなかったこと、などから更新の期待があったと評価されました。もともと無期契約だったところ、雇用継続が約束された、という点がポイントのようです。
 次に、②に関し、Yへの業務移管の期間が5年で終わることに合わせていただけ、と受け止められることがポイントのようです。つまり、①で形成された更新の期待が、②4年目の最後の更新の際までに打ち消されることはなかった、ということになります。
 これに対してYは、最初から5年を上限とする旨明記されていた、Xら自身が5年目を迎える前に有給を消化し、再就職説明会に参加していた、Xら以外の従業員は5年で終了と認識していた、Xらが雇用継続の交渉をしたのは狭山市であってYではなく、Yとの関係で更新の期待があるとは言えない、などと主張しています。
 裁判所は、これらYの主張について、1つ1つ検討し、それぞれ更新の期待を否定する理由にならないとしています。
 しかし、このような判断方法については、判断の中立性の点で問題があるように思われます。
 すなわち、①②のように、更新の期待を肯定する事情については、複数の事情を総合的に判断し、全体の総合力で評価しているのに対し、更新の期待を否定する事情(Yの主張している各事情)については、総合力を問題にせず、個別にバラバラに検討している点が気になります。更新の期待を否定する事情についても、バラバラに検討せず総合的に検討すれば、更新の期待を否定するレベルに到達するかもしれません。判断方法が公平でないように見えてしまいますが、どうでしょうか。

2.更新拒絶の合理性
 ここで裁判所は、一方でXらの人事考課が相当低く、職務遂行能力などに問題のあったことを認めています。
 けれども他方で、それが本当に問題であるならば5年待たずにもっと早い段階で更新拒絶したはず、等の理由で、更新拒絶の合理性を否定しました。
 しかしここでも、Yの主張については、Yがその他に「るる主張するものの、いずれも…合理的な理由…を認めるに足りる事情とはいえない」として、個別にバラバラに検討し、合理性を否定しています。個別判断を行うことの公平性や中立性について、同様の問題があるように思われます。

3.実務上のポイント
 また、更新拒絶の合理性に関し、Yが業務移管を5年経過後も引き続き受託できるようにするためには、経営の合理化が必要であり、そのために狭山市時代の従業員は全員雇用を終了する必要があったと主張しています。整理解雇にも似た議論です。
 この点に関し、裁判所は主張を裏付ける事情が十分でない、という評価をしているようです。
 整理解雇などのリストラについては、裁判所は、会社側の主張を積極的に理解しようという姿勢が多く見えてきましたが、しかし、従業員の生活に関わる問題である以上、その犠牲によって実際にどのようにして会社が再建されるのか、現状分析や将来の見通しなどに関するかなり詳細な検討を必要としています。例えば、経営難にありながら、しかし銀行に支援をお願いする際、かなり詳細な資料と分析が必要ですが、それと似たような状況にあります。
 そうすると、Yの主張は、リストラを理由にする点に限って言えば、検討不十分であると評価されても仕方がないと思われます。
 この点については、リストラの合理性に関する最近の裁判例と同じ傾向が示されていますので、参考にしてください。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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