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鈴木竜太教授の経営組織論を読む

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「法と経営学」の観点から、「経営組織論」を勉強します。テキストは、鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)です。教授にご了解いただき、同書で示された経営組織… もっと読む
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2021年3月の記事一覧

経営組織論と『経営の技法』#286

CHAPTER 11.2.3:構造的空隙を作る ①構造的空隙の要素  このように、低密度のネットワークを作ろうとするとき、それぞれの組織は、ネットワークという関係の構造の中で、ある特殊な位置を占めることが重要になります。ネットワーク論に基づいていえば、構造的空隙を作るということになります。では、構造的空隙とは何でしょうか。  構造的な空隙は、①自分の組織が他の組織とどの程度構造同値であるか 、②自分がかかわりを持つ他の組織が、どの程度相互に結びついているか、という2つの要素に

経営組織論と『経営の技法』#285

CHAPTER 11.2.2:弱い紐帯と強い紐帯 Column ③埋め込まれた紐帯の短所  一方、埋め込まれたつながりの悪い面もあります。1つはネットワークの中心となる企業が何らかの理由で方針を転換したり、ネットワークから退出したりする際に、関係性が強い分、大きな影響を受けることが考えられます。また、過剰に関係に埋め込まれてしまえば、新しい情報に接することができないといった問題や、経済的には不利な関係を解消できないといった問題を抱えるようになってしまいます。 【出展:『初めて

経営組織論と『経営の技法』#284

CHAPTER 11.2.2:弱い紐帯と強い紐帯 Column ②埋め込まれた紐帯の長所  このつながりの特性の違いは、つながりから得られる利点も異なります。埋め込まれた紐帯の利点の1つは、信頼に基づいた関係であるために、相手を出し抜くことはなく、相互の利益を考える関係が形成される点です。  また、市場取引に基づく紐帯が製品のスペックや 価格、量といった情報が中心になるのに対し、埋め込まれた紐帯では、より詳細に、きめ細かい情報、言葉や数字などでは表しにくい情報のやりとりもなさ

経営組織論と『経営の技法』#283

CHAPTER 11.2.2:弱い紐帯と強い紐帯 Column ①トヨタ  ビジネスの中であっても、利害関係によってのみつながりが生まれるわけではありません。トヨタ自動車は戦後、一度経営危機に陥ったことがありますが、このときの取引企業の1つであった川崎製鉄は、支払いの遅延を認めなかったといわれています。経営危機から立ち直り、世界企業となったトヨタでしたが、これ以後数十年にわたって川崎製鉄とは取引をしませんでした。これは利害関係だけでなく、信頼がつながりに影響を与えた例といえる

経営組織論と『経営の技法』#282

CHAPTER 11.2.2:弱い紐帯と強い紐帯 ④密度と閉鎖性  また、高密度のネットワークでは、ネットワーク内部でのやりとりが多くなるために、自然とそのネットワーク内での規範や意識が同質的になります。このような同質的な規範は逸脱的な行動をとるネットワークの参加者に対して、ネットワーク内の規範や意識に従うことを強制したり、そうでなければ、排除しようとしたりします。閉鎖的なネットワークですから、他のネットワーク参加者もこれに同調することになります。  つまり、高密度のネットワ

経営組織論と『経営の技法』#281

CHAPTER 11.2.2:弱い紐帯と強い紐帯 ③密度と情報  ここでは、まずネットワークの密度の観点から考えていきます。ネットワークの密度とは、ネットワーク内で可能なつながりの数と実際のつながりの数によって決められます。たとえば、5つの組織が参加するネットワークがあったとすると、可能なつながりの数は、図11-1のように、その方向性を無視すれば24本となります。もし、実際にそのすべてが取引関係や情報交換など、何かしらのつながりを持っているとすれば、密度はきわめて濃いものにな

経営組織論と『経営の技法』#280

CHAPTER 11.2.2:弱い紐帯と強い紐帯 ②弱い紐帯  一方で、弱い紐帯関係では、秘密の情報や詳細な情報は入ってくることは少ないものの、自分が知らない新しい情報が入ってくる可能性が強い紐帯関係よりも高くなります。弱い関係だからこそ、自分の持つネットワークの外側の情報、つまり異なる世界の情報が入ってくる可能性が高くなるのです。これを弱い紐帯の強さと呼びます。  では、弱い関係も強い関係もそれぞれにメリットがあるとすると、ネットワークをどのように構築することが自分たちの組

経営組織論と『経営の技法』#279

CHAPTER 11.2.2:弱い紐帯と強い紐帯 ①強い紐帯  では、このような埋め込まれた紐帯の関係は、強いほうがよいでしょうか、弱いほうがよいでしょうか。当たり前に考えれば、強い関係であればあるほど、相互に信頼感は生まれますし、より詳細で秘密の情報も交換することができるでしょう。人間関係においても、家族のように長く強い関係であれば、困ったことも相談できますし、それについてサポートもしてくれるでしょう。将来の進路に悩んだときに相談するのは、ただ挨拶をする程度の仲の人ではなく

経営組織論と『経営の技法』#278

CHAPTER 11.2.1:埋め込まれた紐帯  まず、1対1の関係から考えていく ことにします。すでに1対1の関係は、資源依存パースペクティブで見てきたように、重要な資源を持つなど、相手の組織にとって自分の組織への依存度が高いほど、自分たちはその組織に対して影響力を持つことができます。このとき、2つの組織は市場における取引関係が前提となっています。このような関係においては、個々の組織はそれぞれの利潤の最大化をめざして行動することになります。ですから、短期の取引関係、そして利

経営組織論と『経営の技法』#277

CHAPTER 11.2:ネットワーク論 ②対象  このように、ネットワークの網に入ることで、組織は自分たちでは作りえない力を得ることになる一方で、ネットワークによって自分たちの行動が影響を受けてしまうこともあります。また、このようなことは、組織間の関係だけでなく、個人間でも同じです。  このようなネットワークのありようによる影響に関して論じてきたのがネットワーク論です。ネットワーク論では、組織間の関係だけでなく個人間や集団間の関係においても、そのネットワークの構造として同じ

経営組織論と『経営の技法』#276

CHAPTER 11.2:ネットワーク論 ①意味とイメージ  組織は別の組織と個別にそれぞれ関係を持っていますが、1つの組織としか関係を結ばないわけではありません。普通、組織は多くの組織と関係を結んでいます。ですから、自分たちと関係を持つ他の組織も同様に多くの組織と関係を持っていることになります。  それぞれの関係は、前節で取り上げてきた資源の交換、あるいは情報の伝達、影響を与える/受けるといった権力関係、情緒的な関係など、さまざまな関係で結ばれています。このことを踏まえれば

経営組織論と『経営の技法』#275

CHAPTER 11.1.2:適応戦略-資源の相互依存度を下げる ⑥まとめ  資源依存パースペクティブに基づけば、他組織に資源を依存する組織は、その依存度によっては自分たちのさまざまな意思決定において、依存度が高い組織からの影響力を受け入れなければならない状況に陥ることがあります。組織は活動における自由度を得るためには、そのような依存度を低減させるための戦略を考えていかなければなりません。  また、逆に考えれば、他組織から自分の組織への依存度が高ければ、その組織への影響力を持

経営組織論と『経営の技法』#274

CHAPTER 11.1.2:適応戦略-資源の相互依存度を下げる ⑤組織対応  2つ目は、合併や買収を行い、資源を供給している組織を自分たちの組織に引き入れてしまう戦略です。自分たちにとって重要な資源を持っている組織に関しては、合併あるいは買収という手段で、自分たちの組織に取り込んでしまえば、その資源に対する依存度は変わりませんが、組織間の関係における依存性は回避することができます。  あるいは、敵対する可能性がある利害者集団を自分の組織に取り込むことで、影響力を緩和する方法

経営組織論と『経営の技法』#273

CHAPTER 11.1.2:適応戦略-資源の相互依存度を下げる ④契約対応  どうしても資源の依存関係を維持せざるをえない場合にも、いくつかの戦略があります。たとえば、工場における電力は必要な資源ですが、これを使用しないで工場を運営していくことや、電力以外の方法で工場の装置を動かしていくのはなかなか難しいことです。  そのため、他の組織からの影響を少なくし、組織が自由に活動するには、資源の依存関係は維持したままで影響力を回避する戦略をとることになります。この戦略にはいくつか