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労働判例を読む

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2020年9月の記事一覧

労働判例を読む#30

「学校法人武相学園(高校)事件」東京高裁平29.5.17判決(労判1181.54) (2018.12.14 初掲載)  この裁判例は、高校教師がうつ病で休職中になされた懲戒解雇処分の有効性が争われた事案で、業務に基づくうつ病を認定し、したがって懲戒解雇処分を無効と判断しました。  すなわち、労基法19条では、「業務上」の疾病で働けない従業員の解雇を大幅に制限していますが、そこでの「業務上」該当性は、労災補償制度上の「業務上」と同じであるとして、この「業務上」の判断枠組み(①

労働判例を読む#190

「一般財団法人あんしん財団事件」最高裁三小R2.3.10決定(労判1220.133) (2020.9.25 初掲載)  この事案は、業績の悪化によって、①総務的な業務を担当していた女性従業員らを営業担当にして、人事異動させる内示をしたこと、②狭心症・不安障碍によって休職していた管理職者を、従前の地位に戻せるのかを見極めるために降格減給したこと、その他、様々な論点について判断された1審判決(そのうち、①は一部請求認容、②は請求否認)に対し、従業員らXと会社Yの両者が控訴し、特

労働判例を読む#189

「国・平塚労基署長(旧ワタミの介護株式会社)事件」東京地裁H30.5.30判決(労判1220.115) (2020.9.24 初掲載)  この事案は、介護施設の職員Xが、ハラスメントなどによってうつ病になったとして労災を申請したところ、労基署Yがこれを否定したため、裁判所にYの判断の取消しを求めた、という事案です。  裁判所は、Xの主張を否定しました。 1.判断枠組み  この裁判所が示した判断枠組みは、既に多くの裁判所で採用されているもので、特に目新しいものはありません。

労働判例を読む#29

「学校法人明治大学(准教授・制限措置等)事件」東京地裁平29.9.29判決(労判1181.27) (2018.12.13 初掲載)  この裁判例は、ウィキペディアのコピーで学術論文を作るなど、問題行動の多い准教授に対する教授会の様々な措置について、有効と判断しました。 1.教授会の権限と限界  この事案から特に学ぶべきポイントは、大学研究者と大学との関係です。  すなわち、教授会が研究者の研究活動や教育活動を制限する決定を行ったのですが、その正当性はどこにあり、限界はど

労働判例を読む#188

「国・大阪中央労基署長(ダイヤモンド)事件」大阪地裁R1.5.29判決(労判1220.102) (2020.9.18 初掲載)  この事案は、ホストクラブのホストKが、勤務中、自ら大量に飲酒した上、同僚からも飲酒を強要させられ、暴行を受けたうえで放置された結果、急性アルコール中毒で死亡した事案です。遺族Xは、ホストクラブらに対して損害賠償を請求し、裁判所は、ホストクラブの責任を肯定しています(#125、確定)。  ここでは、労災に該当しないとした労基署Yの判断が適切だったか

労働判例を読む#187

「住友ゴム工業(旧オーツタイヤ・石綿ばく露)事件」大阪高裁R1.7.19判決(労判1220.72)  この事案は、昭和20年代以降にタイヤ工場で勤務していて、その後肺がんなどで死亡した従業員の遺族Xらが、会社Yに損害賠償を求めた事案です。  1審(#182)は、一部のXの請求は否定しましたが、その他のXの請求は肯定しました。2審は、1審と同様の判断枠組みを採用したうえで、1審よりも広い範囲でXらの請求を認めました。 1.1審の判断枠組み  1審の特徴として、特に注目される

労働判例を読む#28

「医療法人康心会(差戻審)事件」東京高裁平30.2.22判決(労判1181.11) (2018.12.7 初掲載)  この裁判例は、最高裁から差し戻された事件についての判断です。  ですから、最高裁が既に判断した点、すなわち、医師といえども、残業代を払わない給与にするためには、①基本給部分と残業代部分が判別でき、②実際の残業代が残業代部分を上回る場合には清算することが必要、というルールについて、これをそのまま踏襲しています。つまり、このルールに事案を当てはめて、結論が出され

労働判例を読む#186

「学校法人近畿大学(任期付助教・雇止)事件」大阪地裁R1.11.28判決(労判1220.46) (2020.9.11 初掲載)  この事案は、7年以上契約更新されてきた助教Xの雇止の効力(労契法19条)が争われた事案です。  裁判所は、大学Yの主張を認め、雇止を有効としました。 1.雇用継続の期待  特徴的なのは、更新の期待について、2段階で検討されている点です。  1段階目は、6度目の更新終了後、7度目の更新に向けた時点での更新の期待です。  この事案では、助教の雇用に

労働判例を読む#185

「国際自動車事件 その3」最高裁一小R2.3.30判決(労判1220.5, 15, 19) (2020.9.10 初掲載)  この事案は、タクシー会社Yの賃金制度の違法性が争われた3つの事件について、同日付で全く同じ判断を示した事案です。すなわち、Y賃金制度は、タクシー運転手の給与に関し、基本給などから構成される給与(基本給部分)と、歩合給から構成される給与(歩合給部分)の2本立てとなっています。ここで、残業などによって割増金が発生する場合、基本給部分の割増金と、歩合給部分

労働判例を読む#27

「イビデン事件」最高裁平30.1.5判決(労判1181.5) (2018.12.6 初掲載)  この判例は、グループ会社従業員によるセクハラ行為について、親会社の責任を認めた高裁判例を覆したものです。 1.2つの場面  裁判所は、ハラスメント被害者の主張を退けるために、親会社の責任について2つの場面に分けて検討しています。すなわち、高裁では「使用者が就業環境に関して労働者からの相談に応じて適切に対応すべき義務」(本件付随義務)の違反が認定されましたが、最高裁はこれを以

労働判例を読む#184

「国際自動車事件 その2」最高裁一小R2.3.30判決(労判1220.5, 15, 19) (2020.9.5 初掲載, 2020.12.25訂正)  この事案は、タクシー会社Yの賃金制度の違法性が争われた3つの事件について、同日付で全く同じ判断を示した事案です。すなわち、Y賃金制度は、タクシー運転手の給与に関し、基本給などから構成される給与(基本給部分)と、歩合給から構成される給与(歩合給部分)の2本立てとなっています。ここで、残業などによって割増金が発生する場合、基本給

労働判例を読む#183

「国際自動車事件 その1」最高裁一小R2.3.30判決(労判1220.5, 15, 19) (2020.9.4 初掲載)  この事案は、タクシー会社Yの賃金制度の違法性が争われた3つの事件について、同日付で全く同じ判断を示した事案です。すなわち、Y賃金制度は、タクシー運転手の給与に関し、基本給などから構成される給与(基本給部分)と、歩合給から構成される給与(歩合給部分)の2本立てとなっています。ここで、残業などによって割増金が発生する場合、基本給部分の割増金と、歩合給部分の

労働判例を読む#26

「国立研究開発法人国立A医療研究センター(病院)事件」東京地裁平29.2.23判決(労判1180.99) (2018.11.30初掲載)  この歳判例は、雇用期間5年の歯科医長を、病院が半年もたたずに解雇した事案で、裁判所は解雇を無効と判断しました。  実務上のポイントとして特に注目している点は、病院の解雇プロセスです。 1.ルール  本題に入る前に、前提を確認しておきましょう。  この事案では、労契法17条が適用されますので、解雇には「やむを得ない事由」の立証が必要で