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労働判例を読む

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2020年8月の記事一覧

労働判例を読む#182

「住友ゴム工業(旧オーツタイヤ・石綿ばく露)事件」神戸地裁H30.2.14判決(労判1219.34) (2020.8.28初掲載)  この事案は、昭和20年代以降にタイヤ工場で勤務していて、その後肺がんなどで死亡した従業員の遺族Xらが、会社Yに損害賠償を求めた事案です。  裁判所は、一部のXの請求は否定しましたが、その他のXの請求は肯定しました。 1.因果関係  注目される1つ目のポイントは、因果関係です。  裁判所は、一点の疑義も許さない自然科学的証明ではなく、通常人が

労働判例を読む#181

「東芝総合人材開発事件」東京高裁R1.10.2判決(労判1219.21) (2020.8.27初掲載)  この事案は、経営陣への不満から、会社内部の企画や運営に対する不満をぶちまけるメールを社外にばら撒いた従業員Xが、その後、軽作業を命じられ、それに従わなかったことから、譴責処分と出勤停止処分を受け、それでも業務命令に従わなかったことから、解雇とされた事案です。  裁判所は、会社Yの対応の合理性を認め、Xの解雇を有効と判断しました。 1.プロセス  この事案は、業務命令に

労働判例を読む#25

「学校法人尚美学園(大学専任教員A・再雇用拒否)事件」東京高裁平29.3.9判決(労判1180.89) (2018.11.23初掲載)  この裁判例は、65歳で定年となった専任講師が、70歳まで勤務できることを前提に、特別専任講師としての地位があること(すなわち雇用契約が継続していること)の確認などを求めた事案です。  1審裁判所は、契約継続は否定しましたが、損害賠償請求は認めました。  2審裁判所は、全て否定しました。  実務上のポイントとして特に注目している点は、1審

労働判例を読む#180

「大阪府・府労委(サンプラザ〔再雇用〕)事件」大阪地裁R1.10.30判決(労判1219.5) (2020.8.21初掲載)  この事案は、スーパーチェーン店で、定年後にシニア嘱託社員として再雇用された従業員Eが、再雇用の条件、残業禁止、賞与、について不利益に処遇され、それが不当労働行為に該当するとした労働委員会の判断の合理性が争われた事案です。  会社Xが、労働委員会Yの判断(救済命令)の取消しを求めたところ、裁判所は、Xの請求を否定しました。 1.人事考課  訴訟では

労働判例を読む#179

「イヤシス事件」大阪地裁R1.10.24判決(労判1218.80) (2020.8.20初掲載)  この事案は、リラクゼーションサロンYで、整体やリフレクソロジー等の施術などを行っていたXらが、業務委託ではなく雇用であるとして、未払賃金の支払いを求めた事案です。裁判所は、雇用であると認定しました。 1.判断枠組み(ルール)  裁判所は、従業員性に関する判断枠組みを明示していませんが、その判断を示す判決理由中の章立てから、以下の3点が、判断枠組みであることがわかります。  

労働判例を読む#24

「ジブラルタ生命労組(旧エジソン労組)事件」東京地裁平29.3.28判決(労判1180.73) (2018.11.16初掲載)  この裁判例は、労働組合に雇用された従業員の給与が、会社合併に伴う労働組合の合同に際し、大幅に減額されたことの当否が争われたもので、裁判所は、給与の差額分と、慰謝料の支払いを、労働組合に命じました。 1.どこが参考になるのか  組合の紛争なので、会社経営に関係ないと思う方がいるかもしれませんが、この裁判例で争われた論点は、会社経営でも問題になり

労働判例を読む#178

「コーダ・ジャパン事件」東京高裁H31.3.14判決(労判1218.49) (2020.8.14初掲載)  この事案は、トラック運転手兼配車係のXが、解雇された会社Yに対し、解雇が無効であるとして、労働者の地位の確認や給与などの支払いを求めた事案です。  裁判所は、Xの請求をかなり広く認めました。 1.解雇  解雇理由は、①Xが懇親会で同僚を殴ったこと、②「死ね」など乱暴な言葉を使っていたこと、③運んだ荷物の量をごまかしたこと、④会社のガソリンカードを私用で使ったこと、で

労働判例を読む#177

「北海道・道労委(社会福祉法人札幌明啓院〔配転〕)事件」札幌地裁R1.10.11判決(労判1218.36) (2020.8.13初掲載)  この事案は、救護施設Xの生活指導員であり、労働組合の書記長であったCを、介護職員とする配置転換が、不当労働行為であると労働委員会Yによって認定されたため、Xがその取り消しを求めた事案です。裁判所は、Xの請求を否定しました。 1.判決の概要  ここでは、労組法7条のうちの、1号(不利益取り扱い)と3号(支配介入)に該当するかどうかが問題

労働判例を読む#23

「日本郵便(新東京局・雇止め)事件」東京地裁平29.9.11判決(労判1180.56) (2018.11.9初掲載)  この事件は、私傷病(労災ではない)で欠勤がちの有期雇用契約社員について、契約更新がされなかった(雇止めされた)事案で、裁判所はこれを有効と判断しました。 1.復職可能性の判断  ここでは、半年の契約が更新されて8年間、雇用契約が継続され、雇用契約更新の期待が認められています。したがって、雇止めが有効となるためには、客観的に合理的な理由があり、社会通念

労働判例を読む#176

「豊榮建設従業員事件」大津地裁彦根支部R1.11.29判決(労判1218.17) (2020.8.7初掲載)  この事案は、採石場の従業員Xが、会社Yの代表者と折り合いが合わずに解雇されたものの、その解雇が不当であるとやり取りしている間にYが解雇を撤回した事案です。Yが解雇を撤回したのちも、Xはうつ病等を理由に出社しませんでしたが、うつ病等はパワハラが原因であるとして、給与などの支払いを求めています。  裁判所は、給与の支払請求を否定しましたが、その過程でのいくつかの行為に

労働判例を読む#175

「カキウチ商事事件」神戸地裁R1.12.18判決(労判1218.5) (2020.8.6初掲載)  この事案は、トラックの運転手Xらが、募集の際の話と条件が違うとして会社Yと対立し、集団交渉と個別交渉の結果、Yの示した譲歩案に納得しないままサインをし、トラックのカギを置いて退出し、その後は業務をしなかった、という事案です。大きな論点は、契約条件(Xらは、求人票の記載と異なる条件などを主張する)と、実際の勤務時間(及びこれによる割増賃金)です。  裁判所は、Xらの請求の一部を

労働判例を読む#22

「グリーンディスプレイ(和解勧告)事件」横浜地裁川崎支部平30.2.8決定(労判1180.6) (2018.11.2初掲載)  この裁判例は、21時間を超える連続した業務後に原付バイクで帰宅する途中の従業員が、単独事故を起こして死亡した事案で、これを「過労事故死」と認定し、会社の責任を認める、という裁判所の判断を示したものです。これは、判決ではなく、当事者に対して裁判所が和解案を示すものですが、判決と同様の詳細な事実認定や判断理由が示されており、実質的に判決と同じ内容が示さ