<小説シリーズ vol.8> 宿命 ~さだめ~
その八 “泪”
その光景を前に、
真は言葉をなくしていた
半信半疑だったのは自分でも分かっていた
少しの興味でこの場に来たが
間違いだったとすら思っていた。
真は母子家庭で育った。
母親は仕事柄、肝がすわっていてぶっきらぼう。
いつもクールで
泣いた所なんて一度も見た事がなかった。
真が幼い頃も
甘えたくてもいつも母親は仕事で居なかった。
真は自分より仕事をとる母親が大嫌いだった。
生活を守るためには仕方がない。
仕事を取るのは当然だから
それは分かっていた。
けど、子供心としては納得がいかないものだったのだ。
しかし
今目の前に居るのは紛れもない真の母親である。
大声を出し、ただ...ただ泣いている
真はそれを呆然と見ていた。
母親は腰がたたないのだろう
イスに座る事すら出来ず、地べたで座り込んだまま
辺り構わず泣き崩れている。
ふと中学の頃のことを思い出した。
お腹が痛いと嘘をつき、母親の看病を夢に見た。
しかし現実は、薬の箱を真に手渡し仕事へ行ってしまった。
他にも、バレる事はないだろうと
母親が仕事へ行っている間、学校をずる休みし
母親の帰宅後にあたかも学校帰りを装い真も帰宅したが、
勘の鋭い母親にすぐにばれてこっぴどくしかられた。
なぜバレたかはいまだに理解できない。
世間で言う反抗期に、 警察のお世話になった時
一番始めに真の顔に拳をあげた事
忘れていた記憶が、真の中でよみがえりだした
その時、
真の意思とは違う何かが反応し、 涙が頬をなぞった
「あれ?」
「泣いてる」
そのまま式は進み、
とうとう火葬場に来たときだった。
真の棺が焼かれる
その扉が閉まると母親のあの発作的な鳴き声が辺りを覆った
この時に初めて真は
「これで本当に、もう...逢えなくなるのだ」という事が理解出来た
真と母親はやはり親子だった
同じ様に泣き叫び、自分を責め続けた。
「なんて事したんだ」
「ごめん、ごめん...ごめん」
「もっと、」
「親子なんだから素直になればよかった」
「ごめ...ん」
社会に出て、親元を離れて生活し
母親の事を理解し始めたていた真にとって
自責の念で潰れそうになっていた。
お互いに泣き続け、
母親は真の遺骨の箸渡しの時にはもう立つ事が出来ないでいた。
その時、真のサポート役となる男性が真の肩を抱き
「あなたはまだこれで終わりではない」
「やる事がまだ沢山あるんです」
「立ちなさい」
真はその男がうっとうしく、
そして腹立たしい対象として見たが、
男の顔を見て気持ちを切り替える事が出来た。
言葉はきつかったが、男の顔は優しさに満ちていたからだ
其の九につづく、、、、、次回をお楽しみにw
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<小説シリーズ vol.1> 宿命 ~さだめ~
前回の話はこちら
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<小説シリーズ vol.7> 宿命 ~さだめ~
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