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個展カウントダウン<5日>:写真では表現し切れなかったこと

ポンデザールからのシテ島の眺めを写真にすることで、写真でのシリーズ完結を諦めた、というところまでお話ししました。

3週間の旅程を終えて帰国した私は、再度パリへ向かうための準備期間に入りました。なんとかお金を工面して、再度渡仏できるまで半年がかかりました。その間に、いろんなことを考えました。

詩を書こう、という気持ちは変わりませんでしたが、ではテーマは? 文体は? 形式は? 詩を書くと一言で言ってもいろんな課題があります。私は、実は中学時代から詩を書き始め、写真よりずっと前から自己の表現手段として使ってきました。初めは思うがままのつまらない詩しかかけませんでしたが、詩にも形式があるということを意識し始めてから、だんだんと自分らしい詩が書けるようになってきました。

それはさておき、準備期間の半年間で私が選んだ形式とは、散文詩でした。散文詩といえば、ボードレールの「パリの憂鬱」が有名ですが、私が参考にしたのは、サミュエル・ベケットの散文作品でした。書店でこの本を手にして読んだ時のショックはいまだに忘れられません。こんな文章があるのか、と頭を殴られたような気がしました。もちろん翻訳文学ですから、翻訳者の手腕が素晴らしかったのだろうとは思いますが、とにかく、私はサミュエル・ベケットの散文に夢中になりました。出版されている3冊の本を買いあさり、一生懸命読みました。特に私が気に入ったのは、3冊のうちの「伴侶」という作品です。文法を全く無視して、主語がない、述語がないような文章が不思議と意味を持っている、これまで出会ったことのない文章でした。これでいこう、と私は決めました。

そして半年が経ち、私は原稿用紙とペン、そして報道時代に使っていたニコンの一眼レフにフィルムを100本ほど持って(カメラを持たずには行けませんでした)、2度目のパリへ向かいました。

この旅が、予想を超えたつらい旅になることは、その時の私は想像すらしていませんでした。詳細は、また次回にお話ししましょう。

それでは、また次回。

成瀬功

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