高木護『放浪の唄 ある人生記録』

富士宮の虹霓社から復刊された高木護『放浪の唄 ある人生記録』をお送りいただきました。早速読み、読んだ直後の《これ》をすぐ書きました。

 16歳で南方(シンガポール)送りになり、感染症で死線をさまよい、終戦を迎えて捕虜になり無人島で抑留され、帰ってきてみたら両親が死んで幼い弟妹たちだけが残されていた。そこから始まって、あてのないまま九州を放浪していくひとりの男の回想録。とにかく人がこれでもかというくらい登場して、これでもかというくらいしゃべり、関わり合う。出てきた人物が後になって再登場することが極端に少ない。どんどん出てきてどんどん次へ移動する。まとまった長さの章と、あっけないほど短い章がランダムに出てくる。それがいい。日々の《生きている》が織り出すものが一定のボリュームであるはずがないんだから、起こったことをそのまま書き付ければそりゃこうなる。聞いたこともないナゾ職業もいっぱい出てくるし、著者は当たり前のように使っているけどわたしにとっては初耳の単語もいろいろ出てくる。すんなりとは読めない。

 本の中ではいろんなものが売買され、食べることが切実で、病気や死がいつもすぐそこにある。密造酒のにおいが常に漂っている。男を性的に搾取する女がちゃんと出てくる。「差別する側/される側」みたいなカテゴリ分けをぶっ壊すような人が続々出てくる。わかりやすい「テーマ」があるわけではない。 「どんな本ですか?」とか聞かれても答えようがないから、ドカドカッ!と売れそうな気配はないし、実際、発売時点での書店からの注文はとても少なかったらしい。新刊書店に限らず何屋さんでもいいので今からでも注文して売ってみたらいいと思う。乞食の師匠、シャッポ君の話とかホントおもしろいから。

注文方法は版元公式サイトのこのページ↓にまとまっている。

 この本ではいろんな人物に遭遇できたけど、特に会えて嬉しかったのはどぶろく屋の寄り合い爺さんトリオ(タコサン、ホイナサン、ヨレサン)と、歩きながらいきなり「お陀仏になった」唄い屋のおっサンで、しばらく忘れられそうにない。


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