足を踏んで蛇になる話

 改札で前の人の足を踏んだ。あっと声が出た。目の行き所がなくて振り返ると後ろの人が気の毒そうに見ていた。前から唸り声が聞こえた。ポケットに定期をしまう仕草でごまかした。電車に乗ったら、足を踏んだ人が向かいに座っていた。まともに目が合った一瞬に見た夢。


藪の中で蛇をさがしていた。
蛇は、しっぽを踏むとピンと棒のように伸びてしまうらしい。
そんな話を聞いて、へぇと思った。
気づいたら藪をかきわけてさがしていた。
薄暗くてよく見えなかった。みえない分だけ音と匂いは強い。
あちらかこちらかと頭を振っているうちに草いきれの中に強烈にネズミの匂いがした。
露を腹に感じながらそちらへざっと滑っていく。
沢を渡り、泥へもぐり、苔の上に出た時、尾を踏まれた。
思わずぴぃんと硬直した。


こんな夢を見た。

 足を踏んだ人はまだ怒っている。細い目を光らせて一定のリズムで唸っている。やぁ、藪蛇、藪蛇。

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