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no title #1

_______________朝_______________

その丘はひどく霧がかっていた
緑にうっすらと夜露がたまり、空気は冷たく湿っていた
朝日が登る
虹色の光がゆっくりゆっくりと1日の始まりを告げる
少年は息を切らしながら、1歩1歩と歩みを進めていた
目指すは真実の泉

ある窓辺に、もたれかかる少女
あれだけ輝いていた星々は徐々に薄れゆき、やがては朝日に飲み込まれた
それが彼女には、とても悲しく思えた

ある男はベッドの中で眠りについていた
たった今眠りについたところだ
眉には皺がより、ウーウーと唸り声をあげている
どうやら悪夢をみているようだ
この男はもう3ヵ月も、ろくに眠れていない
医者にも行った
だが答えは常に
『休養』
それだけだった

_______________昼(1)_______________

もうどれ位登っただろう
体は熱を持ち、息がはずむ
静寂に包まれていた丘は、
いつの間にか小鳥たちの声で溢れかえっていた
太陽の光が優しく照らす
『もうすぐだ』
少年は呟いた
目線の先には、上り坂の終わりが見えた

少女は歌っていた
物心ついた頃から歌っている、いつもの歌
♪〜
何語なのか分からないこの歌は、優しさと悲しさが入り混じったような不思議な歌だった
少女は歌い続ける
涙を流しながら

男は目覚めた
酷い寝汗だ
枕元の時計を見る
ねむりについてから、3時間がたっていた
窓の外をみる
もう外はすっかり明るい
男は寝転び天井をみつめた
いつからこんな生活になってしまったのだろう
その答えは自分でもよくわかっていた
しかし、男は分からないフリをした
それが男に出来る、唯一の生きていくための術だった


_______________昼(2)_______________

丘を越えると、そこには確かに泉があった
水と緑と鳥の声
それが全てだった
少年は泉に近寄る
水は澄んでいてどこまでも透明だったが、底は深すぎて見えなかった

ポチャン…

静かに水音が響く
『どうか…どうか母さんを返して下さい』
涙はとめどなく流れ続ける
泉はただそこにあった


_______________夜_______________

少年と少女、そして男がテーブルを囲んでいる
テーブルにはコーンスープと冷たいパンが並んでいる
パンをもそもそと食べながら、少年は言った
『父さん、今日真実の泉に行ってきたよ』
『…そうか』
男は答えた
『お兄ちゃん、何をお願いしたの?』
少女は聞いた
『…別に。なにも願ってないさ。』
少年は答えた

静かに夜はふけ、また再び朝が来る

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