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赤、逃走


私は某戦隊ヒーローのリーダーである赤だ。地球征服を企む怪獣から平和を守る5人組の一番目立つポジションである赤なのだ。悪の手下が現れたと一報を受け、青、黄、緑、ピンクを従え、草も木も生えない荒れ果てた採石場に馳せ参じた。悪の手下が私たちに気がついて、無言でわらわらと向かってくる。土埃を巻き上げながら悪の親玉である怪獣が意外なほど静かに現れた。手下どもとは比べ物にならないくらいでかくてごつくて派手だ。赤である私を睨んでいる。本来ならここで喉元に飛び蹴りを入れるべきなのだろう。私は隣にいる青の肩にポン、と手を置き「ここは任せた!」と力強く頷いてみせた。走り出す私。戦いの舞台から逃走しようとしていることがバレているのだろうか。背中にねちねちとした気配がまとわりつく。失望、非難、唖然、そんなところか。顔をあげると青に任せたはずの怪獣が、なぜか目の前に立ちはだかっていた。来なくていいよ、と後ずさる。全ての赤が、戦う技量や精神力、作戦を実行する行動力などを持ち合わせているとは限らない。みんなをまとめ、勇気づけ、敵をくじく発言など得意ではない。怪獣が吠えた。「緑、こっちに応援頼む!」そう呼び掛けた腕時計型通信機なんて腕に巻かれてはいなかった。怪獣の足音がしない。威圧感だけが迫りくる。

急な暗転。そう、いつもここまでだ。まぶたの裏に白々と日が染みる。目を開けると草も木も生えない採石場は畳に。赤はどこへ逃げたのだろう。