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「トゥームレイダー ファースト・ミッション」で邪馬台国の先進技術を知ろう

「小さな恋のうた」の記事でも触れましたが、近年は世界的に新たなタイプの実写化が一大ムーブメントとして盛り上がっています。
この前は「楽曲」の実写化作品の代表として「小さな恋のうた」を取り上げましたが、今回はもう一個の方である「ビデオゲーム」の実写化作品についてレビューしていきたいと思います。

そのゲーム実写化の代表として相応しいかは分かりませんが、今回取り上げる映画は「トゥームレイダー ファースト・ミッション」です。
トゥームレイダーと聞いて多くの人がまず最初に連想するのは、アンジェリーナ・ジョリーが主演を務めた映画「トゥームレイダー」シリーズではないでしょうか。
アンジーの実の父親であるジョン・ヴォイトが主人公のララの父親を演じた事でも話題を呼び、日本でもヒットして続編も製作されましたが、実は1996年に第1作目が発売されたイギリス発の人気ゲームシリーズが元になっている作品でもあるのです。

「トゥームレイダー ファースト・ミッション」も、2013年に過去のあらすじとはほぼ無関係な状態でのリブート作品である新生「トゥームレイダー」が発売され、その内容にアレンジを加えた映画となっています。
そんな新しい物語を描いた「トゥームレイダー ファースト・ミッション」について、先日母方の祖父の墓参りを念入りに済ませた自分が鑑賞して思ったことを、色々と感想としてまとめていきます。

ファーストミッション

ララ・クロフト(アリシア・ヴィキャンデル)は普段はごく普通の女子大生。資産家の令嬢として生まれ、冒険家だった亡き父の遺志を受け継ぎ、初めての冒険に挑む。それはなんと、神話上の島に隠された、世界を滅ぼす“幻の秘宝”を封印すること。
ミステリアスな土地で繰り広げられる、無敵のアドベンチャー・ヒロインが誕生するまでの物語ー
知られざる“ララ・クロフト伝説”がついにベールを脱ぐ!
(公式HPより引用)

秘宝のように謎の多い監督とキャスト陣

いつもの通り、まずは本作の監督とメインキャスト陣について紹介したいと思います。

本作でメガホンをとったのはローアル・ユートハウグ監督です。
日本ではあまり知られていない方のようですが、それもそのはず彼の監督作品が日本で上映されるのはこれで2回目と、残念ながらまだワールドワイドな活躍はされていない謎の多い映画監督です。
ちなみに初めて日本で公開された彼の作品は「THE WAVE」という災害映画で、これに関してもかなり小規模な公開しかされていなかったので、本当に彼の作風や特異点に関しては知識ゼロです。ごめんなさい。
一応、本作のプロデューサーを務めるグレアム・キングは、かの有名なニューヨーク大好きおじさんことマーティン・スコセッシ監督の作品の製作にも関わっており(「ギャング・オブ・ニューヨーク」以降の作品に限る)、当たり前ですがスタッフ全員が謎に包まれているわけではないのでご安心を。

本作でララを演じたのはアリシア・ヴィキャンデル
2015年に「エクス・マキナ」でAI搭載のヒューマノイド役を見事に演じ切ったことで数々の映画賞にノミネート、翌2016年の「リリーのすべて」で遂にアカデミー助演女優賞を受賞し、今後さらなる活躍が期待される注目の女優さんです。個人的には「ジェイソン・ボーン」でのヘザー・リー役の印象が強いですね。
彼女は本作の撮影のために4か月間のトレーニングと食事管理を行い、アンジーが演じたララとは異なる「スリムビューティな駆け出し冒険ガール」となって密林の中へ踏み出していきました。正直なところ、アンジー版のララはどう見てもその豊かなおっぱいが冒険やアクションの邪魔になるんじゃね?と変な感情を持たせるような見た目だったので、冒険家らしさで言えばすごく真っ当な役作りだと思います。
まあ、アンジーのララの方が良くも悪くもインパクトが大きくて記憶に残るっていうのは否めないですけどね。

主人公と共に謎の島に降り立つ船乗り・ルーを演じたのはダニエル・ウー
香港を中心に活躍されている中国系アメリカ人の俳優で、有名な作品だと「ジオストーム」で主人公の弟の部下役として出演しています。
自分の勉強不足で申し訳ありませんが、香港映画はあまり詳しくないのでこの方も初めてお目にかかりました。ルックスがとてもカッコいいのでもっと有名な映画に出演すれば人気沸騰しそうですね。

そして本作の敵役であり、秘密組織「トリニティ」のメンバーでもあるヴォーゲルを演じたのはウォルトン・ゴギンズ
プレデターシリーズの3作目「プレデターズ」で下品な死刑囚の役を演じて知名度を伸ばした俳優さんです。MCUファンの自分としては「アントマン&ワスプ」のヴィランの1人であるソニー・バーチをやっていた印象が強いですね。野蛮だったり小賢しかったりする小物の役が似合います。

先述したように自分の勉強不足な部分も多いですが、本作の製作陣やキャストの多くはこれからまだまだ有名になっていくような方々で占められている印象が強く、トゥームレイダーというタイトル自体にはある程度のネームバリューがあるものの比較的そういった前情報での期待よりかは実際の中身に重点を置いて勝負している作品なのかなぁと感じました。

トリニティにブラック企業大賞を送りたい

続いてこの映画の肝心の内容についてです。

まず本作は、ゲーム「トゥームレイダー」の実写化としてはとてもよく出来た映画だという印象です。
かつて日本に存在した卑弥呼が治めるくに「邪馬台国」と深く関係する謎の島が主な舞台となっている点以外は、色々と脚本や設定にアレンジが加えられているものの逆にその脚色によって物語の流れがシンプルで分かりやすいものになったので、これに関しては必要な設定変更だったと思います。原作通りにやってたらキャラ数も多くて捌ききれなかったでしょうし、ドラマ性もあまり出なかったんじゃないでしょうか。

目玉であるアクションシーンの方も、原作を上手く再現しつつもしっかりと映画的な迫力やスリルが出るような見せ方ができています。断崖絶壁からの大ジャンプやボロボロの戦闘機にしがみつくシーンそこからの穴の開いたパラシュートダイブと、息つく間もなく彼女を襲うピンチとそこからの脱出を描いている中盤は特に見応えがありました。自分はアクション映画だと、トム・クルーズの「ミッションインポッシブル」が一番好きなんですが本作はそれとよく似ていて、出たとこ勝負な面が強いものの最終的にはなんとか危機一髪の状況を切り抜ける感じがあってとても好きでした。

また、本作のバトルアクションは主に弓矢、クロスボウを使ったものになっていますがこれも原作準拠です。弓矢で敵に狙いを付けながら、見つからないように森の中をちょこちょこ動いている感じがかなりゲーム版っぽくて、僕は友達の家でやっただけのライトファンなんですがそれでも「あるある」な気分になりました。映画としての迫力にやや欠けるシーンなのは否めないですが、ゲーム版のファンなら惹きつけられる場面だと思います。

このように、謎の島に入ってからのアクションとバトルは個人的にかなり好きです。しかしそれと同程度に印象的だったのはヴォーゲルが所属しているトリニティのブラック企業っぷりですね。(笑)
偶然島に流れ着いたララとルーにも発掘作業を強制させる辺り人員の不足を感じさせますし、少しでも反抗したら銃で脅されて酷いときは撃たれ、肝心のヴォーゲルも発掘の成果が出るまで実家に帰れないという戦慄の単身赴任を7年間続けているという、とんでもない過重労働者なんですよ。秘密結社も楽じゃないんですね。10年間無人島でひみつ道具を使いながらも生き抜いていた「ドラえもん」ののび太くんを思い出しましたよ。
しかもここだけ見ればヴォーゲルも悲劇の人かと思ってしまいますが、家族持ちのくせにララと父親を引き離したり、その絆を利用して自分の秘宝への道を切り開こうとしたりと、コイツもコイツでかなり酷いです。ヴォーゲルの家族持ちの設定が行かされている場面ってほぼ無いので、個人的には要らなかったと思いますし、ヴォーゲルに同情させるような場面が変に挿入されていた事がノイズになってしまっていた気がします。

文明国すぎる邪馬台国と都合よすぎるウイルス

次は本作の一番の肝とも言える「宝探しパート」についてですが、結論から言ってしまうと、何も考えなければ楽しめるストーリーなんですがちょっと物足りなさとツッコミどころが目立ってしまっています。

というのも、自分は個人的に宝探し系映画がまあまあ好きで、「インディ・ジョーンズ」「ナショナル・トレジャー」、少し毛色は違いますが「ダヴィンチ・コード」シリーズも全作見ています。そのためか、本作に登場する宝の手掛かりとなるアイテムや暗号文にかなり既視感を覚えてしまいました。謎解きの内容もそこまで惹かれませんでしたし、目新しいものも特になかったのがとても残念です。
しかも、カラフルな原色の石をはめる場所や岩山に用意されたダイアルロックなど、邪馬台国が存在したとされる弥生時代にこんなギミック用意できないでしょっていうレベルの仕掛けばかりで、そのリアリティの無さが余計に出来を悪くしています。せめてもう少し原始的なトラップをメインにすればこの違和感は払拭できたんですが…

そして終盤、その遺跡の奥で卑弥呼のミイラを発見して、彼女が生きながらにして埋葬させられたのは未知のウイルスに感染していたから、という衝撃の事実がここで明らかになる訳ですが、ここもちょっと…
このどんでん返しのアイデア自体は悪くないと思いますし、何とかしないと世界が滅びるかもしれないという危機感の演出としては十分機能してはいるんですが、いくら何でもそのウイルスが1500年以上経っている現代でも猛威を振るうなんておかしいにも程があると思います。その感染が広がる様子もすごく御都合的でやり方が上手くないんですよね。なんか感染者の身体に直接触れたら自分も感染者になるっていう仕組みだったと思うんですけどそれも人によって発症するスピードが違いますし、そもそも発症してから間もなく死に至る場合もある恐怖のウイルスなのに、直接体同士が触らないと感染しないっていうのも違和感ありすぎて集中できませんでした。

そんな空気を読むことのできるウイルスのパンデミックを防ぐため、最後の感染者となったララの父親が、爆弾で自分ごとウイルスを爆発四散させるという何とも野蛮な解決策で、一応世界は感染の恐怖から救われてエピローグに入っていくわけです。
今さらっと「ララの父親」って書いちゃいましたが、ヴォーゲルに殺されたはずのララの父親、実は死んでいなかったんですね。あれだけ独特な空気を放ちながらララに父親殺しを告白したヴォーゲルがとんだピエロにしか見えなくなる展開ですが、ともかくこの父親がとった野蛮な解決策により、ララと父親の「家族という名の宝物」に関するストーリーは、多少強引なところもありますが最低限のクオリティを保って幕を閉じられていると感じました。そしてその悲しみを背負ったララ哀しき社畜ピエロ・ヴォーゲルの最後のバトルに関しては結構見入ってしまいました。やっぱりアクションは結構よくできているんですよね、この映画。

このように、メインの物語を締めくくる役割としての要素はある程度この「遺跡での宝探しパート」に詰まってはいますが、やはり全体的に新鮮味が無く、疑問点や粗削りな箇所も多く見受けられるなどいまひとつな完成度となっています。ダメというわけではないんですが褒められるわけでもない、何とも評価が難しい内容なんですよね。

セカンドミッションにはけっこう期待が持てそう

タイトル通り、本作は冒険家ララ・クロフトの最初の冒険を描いた映画で、今後新たな「トゥームレイダー」シリーズが展開されることが予想されるようなシーンがいくつも散りばめられています。

特に顕著なのはララが宝島から帰還した後の展開です。
端的に言えば、実はヴォーゲルが所属していた組織「トリニティ」はララの父親が経営していた企業と密接な関わりがあり、今後の作品で最後のボスになるであろう人物が現経営者のアナ・ミラーである事もこのラストの展開で示唆されているのです。

アナ

率直に言うと、この「身近な人が黒幕でした」という展開自体は、本作だと中盤でかなり分かりやすくフラグが張られているので意外性はあまり無かったです。宝島での発掘シーンでトリニティのロゴマークを大写しにしている時点で「あ、このロゴどこかで見た事あるって後で気付くやつだ」っていうのは見え見えでしたからね。しかし、最後の最後に黒幕の存在をはっきりさせておき、ララの次の目標を明らかにするという役割はしっかりと果たしていますし、何よりも次回作へのクリフハンガー的エンドという意味でも個人的にはすごくよく働いていると思いました。

そして本作を「ファースト・ミッション」として質の高いものにしたのは、やはりアリシア・ヴィキャンデルの「新しいララ」を見事に作り出した素晴らしい演技だと思います。序盤の格闘技ジムで相手に一方的にやられるシーンで「自分に自信はあるけどまだまだ未熟なララ」を上手く見せておきながら、その後の物語で次々に襲い掛かるピンチを未熟ながらもなんとか切り抜けて成長していくという本作のメインテーマの一つであるところも、とても上手くスムーズに演じていました。
アンジー版のララは冒険者として既にある程度成熟しているという設定で、凄腕のトレジャーハンターというシリーズ本来の魅力にはすごく合っていたと思いますが、本作が描くべき「ララの最初の物語」とは明らかに反発しているキャラ造形でもあると思うんですよ。だからこそ、アリシア演じるララがこの作品の主役で本当に良かったな、次の作品も見てみたいな、そんな事を今回の彼女の演技は感じさせてくれました。最後の最後でシリーズではもうお馴染みの「2丁拳銃」も手に入れてくれましたし、現在制作中だという2作目も楽しみです。

そういう意味では、この映画は新しい「トゥームレイダー」の1作目として非常に優秀であり、物足りなかった宝探しパートに関しても本田圭佑選手のようなポジティブ目線で捉えると「伸びしろですね」と言うことができると思います。

本田圭佑

ルーはレギュラーになれるのか

このように、色々と弱点は目立っていますがシリーズ1作目としては上々の出来である「トゥームレイダー ファースト・ミッション」。
この作品限りでシリーズ全体が墓標に埋まってしまわないよう、祈願する事くらいしか自分にはできないのが歯痒いです。映画版「アサシンクリード」の二の舞は勘弁してください。

もし念願のシリーズ化が実現した暁には、相棒的なポジションで最初出てきたのにも関わらず、島に行きついてからは半ば蚊帳の外だったルーに、もう一度チャンスを与えてあげてほしいです。

今回も長文となってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございます。また次の記事でお会いしましょう。

トモロー

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