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今日の一冊vol.3《白銀の墟・玄の月①〜④》


読了後、先ず脳裏に浮かんだのは、「なんという物語なんだ…」という、感想とも呼べないような思いだった。

あらすじはここでは省略して、感想や印象をしたためていきたい。

今回は、麒麟のあり方や天のシステムと、十二国記の根幹に係わることに対して、様々な疑義を抱く、既刊の中でも必ず異質な物語だったと思う。

阿選にしても、動機につながる内面については明かされたものの、釈然としないものが残っている。
泰麒に対する、冷徹とも言える眼差しや嗜虐的な仕打ちなど、すくいきれない残滓が底に揺蕩っているようなもどかしさを覚える。最期に彼は何を思ったのか、知るすべはない。破れたものは、歴史の狭間に沈んで消えていく。

次いで挙げねばならない謎は、琅燦だろう。彼女の行動に関しても、大きな疑問が残る。結局、耶利の主は彼女だったのか?阿選の謀反に手を貸しながら、一方で物語の後半で泰麒を救うという、一見相反する行動を取る彼女の真意はどこにあるのか?

そして、泰麒。
慈悲深く、何より血を厭うはずの麒麟が、剣を用いて、自らの手を血で汚した。味方を含めた周囲を欺き、最後の最後で舞台を根底からひっくり返してみせた。
海の向うの、もうひとつの故郷での出来事、そこで流された夥しい血と数多の犠牲者。
“先生”の名前が泰麒の唇から紡がれたとき、胸が塞がれるような、言いようのない感情を覚えた。

最終巻の最後のページを目にして、ふっと心に残る暖かい陽射しが差し込んだような、感慨深いものを感じた。
分厚い「戴史乍書」ー。もう、それだけで十分。

今年は書き下ろし短編の刊行も発表されている。
現在なのか、過去なのか、また違う国の物語なのか、詳細はまだわからないものの、彼ら・彼女たちのその後を覗かせてくれるのか、そのあたりも楽しみに待ちたい。

この出逢いに、心からの謝意を。

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