「鋼の錬金術師」に見る生物学
デザイナーのKOJIROです。12/3の日記。
最近、鋼の錬金術師を読み返した。初めて出会ったのはたぶん10年くらい前、高校の時だったと思う。
「好きな漫画Best3は?」という質問があったら間違いなく「鋼の錬金術師」は入る。
そのぐらい、自分の中で完成度の高い漫画作品。
読み返すと、ゾルフ・J・キンブリーという男の魅力に改めて気付かされる。
キンブリーは、全ての物事に、論理的に筋を通す事を大事にしている。だから、人を×す場である戦場において「自分は嫌々やっている」という顔をしているホークアイ、マスタングの行動は矛盾しており、気に食わないのだった。
そして「あなた方が×す相手を正面から見ろ!そして忘れるな。相手も、あなたの顔を忘れない」と言い放つ。
「人を×す覚悟を持たずに軍服を着たのですか」。彼に生理的嫌悪感を持つマスタングも、返す言葉がない。
そんなキンブリーの存在を、自分が好きな「生物学」の側面から掘り下げたい。
「紅蓮」の二つ名を持つ国家錬金術師、キンブリー。
錬金術による"爆発"攻撃を得意としていて、多くの犠牲者を出したイシュヴァール殲滅戦においても、そこら中を爆破しながら「いい音だ!!」と発狂していたサイコパスである。
キンブリーは考えが極端な異常者であると同時に、言動と行動に矛盾がなく、発言に一本強力な筋の通っている人物でもある。
そのカリスマ性に悪役ながら魅力を感じる読者も少なくないのではないだろうか(自分もそのうちの一人)。
引用したのは、キンブリー自身がスリルを味わう為だけに、人類に敵対する「ホムンクルス」一派に加担することの異常性を、主人公エドワードから指摘された際の発言。
自分のことを異端であることは理解した上で、「人間とホムンクルス」、「意志と意志のぶつかり合い、どちらかが生き残る」という時代の渦中にこ生きる喜びを感じる、ということだろう。
自分が注目したのは、「異端」であることを理解しているという点。また、その価値感が生き残ればそれは「世界が私を認めたという事」という箇所だ。
ダーウィンの『種の起源』においては、「自然淘汰」という考え方がある。
生き物の進化には自然環境が大きく関わっている。
環境が変化すると、今まで繁栄していた生物種に対して「自然淘汰圧」がかかり、これまで生きていた生物は絶滅し進化が促される。
たとえば酸素濃度が非常に高い石炭紀(3億5920万年〜2億9900万年前)においては、巨大な昆虫たちが地上を支配していた。
陸地の多くの面積を占める植物たちにより光合成が進み、いまとは大気構成が全く異なる環境になっていた。
酸素は我々動物にとって欠かせないが、「濃すぎる酸素」は多くの動物にとって猛毒になりうる。
そんな石炭機の初期、身体の小さな節足動物たちは環境に適応できず死滅していき、当初は"異端"であった大型のトンボやムカデなどだけが生き残り、地上を支配するに至った。
よく自然界の厳しさを表すときに「弱肉強食」という言葉があるが、自然界に「強」とか「弱」とかはない。
あくまで、当時の自然環境において淘汰されなかった者が生き残るという、極めて冷静で長期的に働く力が自然淘汰圧である。
ダーウィンの進化論の理屈を、首の長いキリンを例に表してみたい。
もともとキリンはウシの仲間で、オカピとの共通祖先を持つ。
①「首のちょっと長いウシ - A」と「首のちょっと長いウシ - B」が遺伝子を交換する。
②「首の結構長いウシ - C」が誕生する。
③ Cは、首の短いウシよりも高いところに口が届くのでより多くのエサを食べることができ、生き残る確率が上がる。
④Cと、同じような個体Dが遺伝子を交換すると「首のさらに長いウシ」が誕生......
④首の長いキリン爆誕!
というように、環境に適応した形質が生き残り、その形質を受け継いでいくことで生き物の進化は進んでいく。
「異質な個体」が淘汰されるのか、その形質が生き残るキーになるのかは、環境に晒してみないとわからない。
ゾルフ・J・キンブリーは、それを理解している。
異端であることを理解し、闘うことで
個としては、自分を理解することができる。
種としては、進化を促すことになる。
「少し首の長いウシ」であるキンブリーは、自分を首が長い異端者であることを理解し、矜持すら持っていた。
人を×すことになんの躊躇いもないという性格は、「戦場」という、ある意味極限環境においては、生存に適した形質とも言えるのである。
上記は、イシュヴァール殲滅戦において、戦友マスタングから「戦う理由」を問われた際の、マース・ヒューズの返答である。
その後彼のたどる末路は、エドワードやマスタングたちの価値観に強い影響を与えることになる。
ヒューズは死にたくなかった、だから戦った。
論理としては、キンブリーのスタンスとなんら変わりはないと考える。
様々なことを教えてくれる鋼の錬金術師。
また読み返そうかな。
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