0.01の世界

「ああ、僕の世界は今、とても霞んでいる!」
「それはそうだろうよ。だって、君の眼鏡は頭の上にあるんだから。」
「何もかもが何もかも分からない……!」
「それはそうだろうよ。だって、君の視力は0.1にも満たないんだから。」
「そう。僕の世界は今、右も左も、前も後ろも、上も下もない。
 なんておかしな世界に迷い込んでしまったんだ……。」
「まぁ、そう肩を落とすなよ。僕は君が羨ましいぜ?」
「どうして? 何も見えない、何も分からない、こんな世界の何がいいと言うんだい?」
「例えば、さ。
 君が今踏んづけている煙草の吸殻とか、」
「え!」
「こっちを……というか、君をじろじろ見ていやがるジジイとか、」
「え!」
「あと、今日が何曜日か、とか。」
「……。」
「現実に戻って来いよ。いい加減。」
「……。」

「こうして、彼は奇妙な世界から抜け出すことができたとさ。
 めでたし、めでたし……。」
「やめろよ、ナレーションとか。可哀想になってくる。」

#SS #ショートストーリー #短編

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?