ウクライナ:民族主義者たちはいかにして主導権を握ったのか(2014年03月12日)
はじめに、記事を読みやすくするキーワードを解説し、政党・政治団体を分類しました。
・マイダン ・・・ユーロマイダン。EUとの連合協定およびIMFの条件付帯貸付を拒否したヤヌコヴィチ政権に対する、数か月続いたキエフにおける反政府テロ(あるいは反政府デモ)から、大統領追放に至る
・民族主義者・・・極右、過激派、ファシスト、白人至上主義、マイダンでは欧州統合を推進
・政党スヴォボダ(「自由」)
・プラヴィセクター(「右派セクター」)
・アナキスト ・・・自律、左派、反ファシズム、男女平等、欧州統合に懐疑・批判的
・学生組合 プリアマ・ディヤ(「直接行動」)
・共産党 ・・・左派、反ファシズム、反資本主義、国際主義、マルクス主義、政治的急進主義、男女平等、欧州統合に懐疑的・批判的
・ボロトバ(「闘争」)
・民族的アナキスト・・・極右、過激派、無国籍、超国家、哲学的アナキズム、ファシズム、新部族主義
・アフトノムニ・オピール(「自律的抵抗」、元国民労働党)
・ナロディ・ナバト(「人民の鐘」)
・ソーシャルニー・オピール(「社会的抵抗」)
・その他の反ファシストやアナキスト
・アーセナル-キエフの一部のサッカーファン
・ホスピタルガード(マイダンの中で一般市民、民警、極右にかかわらず 怪我人の救護にあたった市民組織)
・マナーキスト ・・・man+anarchist 女性の自由や自律を軽視するアナキスト
・フェミニズム ・・・女性の権利向上に関する理論と活動
・プロライフ・・・人工妊娠中絶に反対する理論と活動
掲載元 CrimethInc
https://ja.crimethinc.com/2014/03/12/ukraine-how-nationalists-took-the-lead
〈本文〉
プーチンは、おそらく不安の伝染がロシア国内に広がる懸念のために、この暴動(訳者注:ユーロマイダン)から戦争へ(訳者注:米オバマ政権において民主化運動と介入によりシリア、リビア、中東欧で緊張が高まっている)と話題を変えたがっているが、アナキストや社会運動に関わる人々にとって、ウクライナの革命から学びを得ることは特に重要だと思われる。具体的に、民族主義者やファシストがどのように主導権を握ることができたのか、また、将来、他の場所でこれが起こる可能性を、どのように最小化することができるのか、研究したい。
*
キエフの自律労働者連合(Autonomous Workers’ Union)のメンバーへのインタビューを紹介しよう。彼は、スヴォボダ(Svoboda「自由」)やプラヴィセクター(Pravy Sector「右派セクター」)などのグループが、どのように社会運動を利用する立場に至ったか説明し、さらに、この不利な状況でアナキストと反ファシストが取ったさまざまな戦略の有効性を語っている。
近々、私たちは、世界中のアナキストがウクライナの例から何を学ぶことができるかについての予備的仮説を、英語で入手可能な一次資料のリーディングリストとともに発表する予定である。
- 民族主義者はどのようにして、運動の中でこれほど目に見える形で地位を確立できたのでしょうか。彼らが最初にそこにいたからでしょうか? それとも、多くのリソースを持っていたからでしょうか。それとも、運動自体の問題や要求に関する何かだったのでしょうか?
いくつかの理由がありました。まず、デモ参加者の大多数が民族主義を否定しません。リベラルな考えを持つ人々でさえ、政党スヴォボダやその他の民族主義的組織に対して、あまり発言していません。彼らの多くは、民族主義者が自分たちのイデオロギーに従わないと思っていて、民族主義者の攻撃的な行動から目をそむけているのです。それは思い込みです。
第二に、スヴォボダ党の民族主義者たちは、ずいぶん前から、ほとんどすべての社会的抗議行動に潜入し始めました。他の政党がそうでないのに対して、彼らには多数の活動家がいるのです。これらの活動家は、抗議活動中に多くの組織化を成し遂げました。警察との衝突では、馬鹿者からの支援はさらに価値を増しました。これはプラヴィセクター(右派セクター)グループにも関係することです。その一方で、スヴォボダは、他の活動家のスペースに積極的に乱入し、他の抗議者と残酷な戦いをしたため、一部の支持を失いました。
第三に、他の野党は国会でスヴォボダの票を必要としているということです。スヴォボダを快く思っていない人はまだかなり多いのですが(民族主義者と公然と協力することを好まないヨーロッパの政治家も)、スヴォボダはそのリソースゆえに、抗議集会の合法なパートのひとつであると評価されていました。
ウクライナの占領された議会で白人至上主義者の旗を掲げる
- アナキストと反ファシストが同様の存在感を確立できなかったのはなぜでしょうか? 彼らが異なった行動をとっていたら、それは可能でしたか?
ウクライナには民族主義者に比べ、アナキストや反ファシストはそれほど多くはありません。また、多くのアナキストは、「マイダン」がすべてユーロ統合に関するものであったときは、デモに懐疑的でした。しかし主に警察の横暴に対する抗議に変わったときに部分的に参加しました。とはいえ、極右がいつ何時でも攻撃してくる可能性があり、社会問題について揺さぶるのはかなり危険なことでした。
もう一つの理由は、ウクライナのアナキストと反ファシストが、いくつかの主要な問題のために分裂していることでした。かなり多くのアナキストや反ファシストが、むしろマナーキストmanarchistであり、フェミニズムや中絶権利運動を「ブルジョワ」として拒否しており、アフトノムニ・オピール(Avtonomy Opir 「自律的抵抗」)の民族的アナキストと協力関係にあります。
‐ アナキストや反ファシストが、この状況に対してより良い準備をするために、過去数年間に何かできたと思いますか?
実際、このような事態は、野党の指導者たちにも、誰にとっても予想外でした。機動隊による暴力で抗議行動を大きくするよう挑発したのは政府でした。
ウクライナにはそれほど多くのアナキストがいるわけではありません。例えば、キエフの5月1日デモには、2012年に300~350人ほどのアナキストや反ファシストが集まりましたが、翌年には200~250人ほどに減少しています。他の都市では、アナキストや反ファシストのシーンはもっと小さくなっています。多くの人が、社会民主主義や国民的アナキズムに意見を変えました。その主な理由は、ワークショップやディスカッション、本の出版などがほとんどなかったからだと思います。今は、活動家の数を再び増やし、理論に関するワークショップに集中することが大きな課題です。
- この状況に取り組むために、さまざまなアナキストグループが追求した戦略は何ですか? 結果からどのような結論を導き出すことができますか?
ユーロマイダンが始まったばかりの頃、労働組合主義の学生組合プリアマ・ディヤ(Priama Diya「直接行動」)を含むさまざまな左派・フェミニストグループが、社会的・フェミニスト的スローガンと同時に、欧州統合の考えを批判して、さまざまな方法でデモに潜入しようとしました。彼らは馬鹿者たちにデモから追い出され、共産党ボロトバ(Borotba)の活動家は非常に激しく殴打されたりもしました。一部の活動家はさまざまな方法で抗議活動に潜入し続けましたが、それほど公然とはしていませんでした。たとえば、抗議者の間でさまざまなワークショップを開催しましたが、ほとんど成果はありませんでした。
アーセナル-キエフ(Arsenal-Kiev)の反ファシストであるサッカーファンは、警察の残虐行為に対する抗議に参加することを決めました。彼らは、ナチスとの「休戦」を宣言し、警察との戦いに参加しました。 また、アーセナル-キエフのファンは、アフトノミー・オピールの民族的アナキストと協力しながら、すべてのアナキストと反ファシストに彼らの闘いに参加するよう呼びかけました。アナキストがそのような同盟についていくらかの批判をした後、サッカーファンはそのような批判をするすべての人を暴力で脅しました。もちろんさらに多くの人々がサッカーファンに背を向けたため、この宣言は逆効果となりました。
1月の過激な警察の残虐行為の後、さまざまな左派、特にアナキストが、病院での負傷者に対する警察の残虐行為を防止しようとするグループ、「ホスピタルガード」を立ち上げました。「ホスピタルガード」は非常に効果的で、穏健な考えを持つ多くのデモ参加者がこのグループに加わりました。現在、警察との戦いが終わって、「ホスピタルガード」の活動家たちはこれを新自由主義の医療改革と戦うイニシアチブに変えようと考えています。その効果は、時間が経たなければわかりません。
- アナキストのレトリックやアプローチのどの側面が民族主義者に使われたのでしょうか? これを防ぐために、私たちは何ができるでしょうか?
プラヴィーセクターやスヴォボダ党のナチスは、アナキストの思想を取り入れる必要がありません。彼らは依然として強い国家を支持し、この思想で支持を得ています。マイダン抗議デモの間、彼らはより多くの同調者を得るために、以前よりも民主的なレトリックに変更しましたが、依然として非常に権威主義的で、アナキストの影響の兆候はありません。
アナキストの考えを流用した唯一のファシストグループは、ウクライナの元国民労働党であるアフトノムニ・オピールです。彼らのイデオロギーは、アナキズム、民族主義、第三の道の混合です。左派の中には、かつてのファシストが考えを変え始めたことを非常に喜んだ者もいましたが、実はこの進化は、イデオロギーミックスの上で止まりました。アフトノムニ・オピールの進化は、別の効果ももたらしました。一部の反ファシストやアナキストが彼らと協力し始め、彼らのアイデアを使いだしたのです。今では、ナロディ・ナバト(Narody Nabat「人民の鐘」)やソーシャルニー・オピール(SocialnyOpir)といったグループや、アーセナル・キエフのサッカーファンが、プロライフやフェミニズムの拒絶などの、基本的に同じ考えを持っています(http://nihilist.li/2014/03/10/avtonomny-e-natsionalisty-gomofobiya-antifeminizm-totalitarny-j-kollektivizm-i-gosudarstvo-perehodnogo-perioda/)。
党首に再選された際に党の敬礼を行うスヴォボダのオレーフ・チャフニボク
最前線の右派セクターのメンバー
「社会的アナキスト」と自称するグループ、ナロディ・ナバット(人民の鐘)は、「自律的民族主義者」と協力関係にあるとされる。
(訳者より)
この記事はここで終わりです。少し尻切れとんぼな印象です。答えがないままに見えます。あるいは、欧州統合をめぐるイデオロギーの衣を借りて、金と暴力に支配されていることが窺えます。掲載元には後続記事があり、こちらです。そして、このインタビューから2か月足らず、5月9日にロシア系住民の町であるマリウポリの市民に何が起こったか、ここに記録映像があります。
関連記事
ロイター:解説「ウクライナのネオナチ問題」(2018年3月20日付)|Kfirfas #note https://note.com/14550/n/nf85ff07819ac
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?