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遺伝子組み換え作物(GMO)をめぐる捻じれた政治 (2015年6月29日付)

The Twisted Politics of GMOs
JUNE 29, 2015
https://www.counterpunch.org/2015/06/29/the-twisted-politics-of-gmos/
BY COLIN TODHUNTER コリン・トッドハンター

 政治にコネクションを持つロビイストや、公的機関に席を置く金持ちの企業が、自分たちの目的のために政策を曲げてしまったら、私たちは深刻な問題に直面することになる。その時、公的機関が乗っ取られ、私たちの選択、自由、権利が破壊される。企業の利害関係者は、怪しげな「科学」と、ロビイスト、コネクション、政府の中枢での存在感を利用し、公共の利益を守るために設立された機関を、自らの商業的利益のために破壊する。それはあまりにも頻繁に行われてきた。ひとたび権力が確立されれば、彼らに疑問を呈する者、彼らの邪魔をする者は誰でも非常に困難な状況に追い込まれることになるだろう。

 民間企業と政府機関の間には、回転ドアがうまく据えられている。米国では、遺伝子組み換え作物(GMO)業界、特にモンサントの多くの幹部が、食品医薬品局や環境保護庁、政府内の役職にいとも簡単に転職している。作家で研究者の ウィリアム・エングダール(William F. Engdahl) は、ヨーロッパにおける同様の影響について、欧州食品安全機関のGMOセクターとのつながりに注目して執筆したが、2009年にモンサントの遺伝子組み換えトウモロコシの研究を肯定的に審査し、EU全域での認可に繋げたGMOパネルに関与した科学者の半分以上が、バイオテクノロジー産業と関係があると述べている。

「モンサント社は、バイオテクノロジー食品の安全性を保証する必要はない。我々の関心はそれをできるだけ多く販売することだ。安全性の保証はFDAの仕事だ」――フィル・アンジェル(Phil Angell)、モンサント社広報部長(ニューヨークタイムズ誌《庭で神を演じる》1998年10月25日)

 フィル・アンジェル氏の発言は疑問を投げかける。では、特に公的機関がもれなく包含されている場合は誰がそれを保証するのか。モンサント社は、あらゆる方面をカバーしているのである。

 そのような権力のある地位に就くことができるようになった企業が、批判をかわすために、あらゆる手段を講じるのは当然だろう。

プロGMOロビーのよく使い古された戦術は、 「科学 」と業界の主張に異議を唱えた人物を中傷し、攻撃することだ。訴訟の脅威と英国政府の圧力により、数年前、一流の研究者で科学者 であるアーパッド・プスタイ(Arpad Pusztai)博士は、GM食品の危険性に関する彼の研究について事実上沈黙させられた。プスタイ博士の名声を失墜させるためのキャンペーンが展開されたのである。セラリーニ(Seralini )教授と彼のチームの研究もまた、モンサントがその商業的利益を確保するため、科学の中心部を標的にされ、業界の激しい圧力に見舞われた。このように科学者が標的にされた例は枚挙にいとまがない。ウィキリークスケーブルは、フランス駐在のアメリカ大使が他のアメリカ政府高官と共謀して、GMOを規制しようとする国々の「報復ターゲットリスト」を作成し、いかにGMOがヨーロッパ諸国に押し付けられたかを浮き彫りにした。これは明らかに業界の力を示している。

 GMOセクターは、その製品が安全であることを証明する責任があることを理解していない。そして、それは明らかに失敗している。ブッシュ政権がGMOを米国市場に出す前に、独立したテストは行われていない。市場に出た後、それらが安全(または危険)であることを証明する責任が、他人にあるはずがない。とりわけ弁護士のスティーブン・ドルカー(Steven Druker)氏の著書『Altered Genes, Twisted Truth』が示すように、米国におけるGMOの販売が、不正行為と、潜在的な健康被害を指摘する科学的証拠を摺り抜けているためとあっては。

 したがって、GMOが安全であると主張するセクター自身が行った研究を信用すべきかどうか、私たちは問う権利がある。ティルヴァーディ・ジャガディサン(Tiruvadi Jagadisan) にその答えを求めてみよう。

 彼はモンサントに20年ほど勤務し、そのうち8年間はインド事業のマネージング・ディレクターを務めた。彼の述べたところによると、数年前モンサントがインドで自社製品の商業承認を得るために政府規制機関に提出した「科学的データを偽造していた」。モンサントでの元上司は、1980年代に同社が取引していた政府の規制機関は、除草剤の認可を与える際に、同社が提供したデータを単に信頼していたと述べている。India Todayによると、インドの中央殺虫剤委員会はモンサントから提供された外国のデータを単純に受け入れ、時には偽造されたデータを検証するための試験管さえ持っていなかった。

セラリーニ教授のような科学者が、これまで独立してテストされていなかったGMOをテストすることによって、ある意味でキャッチアップしている今、彼は攻撃されているのだ。しかし、セラリーニと研究に対する攻撃は、非科学的な論争と業界の圧力に過ぎないことが分かっている。実際、セラリーニ氏は新しい研究で、明らかに結果を歪めるために偏向した業界が支持する研究の深刻な欠点を強調している。セラリーニと彼のチームが、また中傷と攻撃にさらされることになるのかどうかは、まだわからない。

 これは業界の特徴で、科学がイデオロギーの煙幕に利用されてまで、製品が安全であると言うのだ。私たちは、モンサントの主張を額面通りに受け取ることを期待されているのだ。モンサントのトップとFDAの役職の間には回転ドアがあり、ロビー活動と規制の間の線が実際にどこに引かれているかを見ることは困難である。当然ながら、米国におけるFDAとGMO産業とのつながり、そしてEU内の規制機関とのつながりは疑われている。

遺伝子組み換えは、いわゆる「緑の革命」の再来である。農業はこの2世代で、それまでの1万2千年間よりも大きく変化した。環境保護主義者のヴァンダナ・シヴァ(Vandana Shiva)が指摘する通り、1945年以降、兵器産業に携わっていた化学メーカーが、その化学的ノウハウを農業に応用することに目を向けた。その結果、化学薬品に特異的に反応する「矮性種子」が意図的に作られた。農業は化学薬品に依存した産業へと変貌を遂げ、多くの生物多様性を破壊してしまった。私たちに残されたのは作物のモノカルチャーであり、これは食糧の安全保障栄養摂取に悪影響を及ぼしている。事実上、現代の農業は、大量の標準化と企業製品への依存に基づいた支配のパラダイムの一部である。

 その影響は甚大であった。化学工業化した農業は、世界中で緑の革命を推し進める上で大きな役割を果たした石油富豪のロックフェラーによって、石油と化学工業に非常に有利であることが証明された。特に「構造調整」によって、単一作物輸出指向の政策を優先して伝統的農法を根絶し、高度に水集約型の産業に対応するためのダム建設、融資と債務、米ドルの需要増加など、欧米の覇権を維持・促進するために役立ってきたのである。 

 農業は1945年以来、アメリカの外交政策の主要な手段であり、その世界的覇権の確保を手伝ってきた。ウクライナでの現在の出来事以上にわかりやすいものはない。ウクライナでは、金融融資に付随する紐帯が、モンサントにGM農業を開放する結果を引き起こしている。アフリカからインドアジアに至るまで、土着農業と食糧生産の大企業による乗っ取りは、農民が土地に留まり、種子の所有権を保持し、健康な食物を育て、生活を守る権利を求めて闘う中で、大きな政治問題になっている。

 貧しい国々を世界貿易の不平等なシステムに巻き込み、世界的な不平等を強化する以外に、企業が食糧と農業を乗っ取ることは、特に健康に関して多くの影響を及ぼしている。

 代替農薬キャンペーンの創設者であるメリル・ハモンド(Meryl Hammond)博士は、2009年にカナダ議会委員会で、権威ある専門誌に掲載された多数の研究が、化学農薬と生命を脅かす深刻な健康被害との間に強い関連性があることを指摘していると述べた。カナダ政府のトップフードアドバイザーであるシブ・チョプラ(Shiv Chopra)は、食品業界の力によって、危険だとわかっていたあらゆる種類の食品がどのように規制当局の認可を受け、市場に出回ったかを記録している。

 重度の貧血、永久的な脳障害、アルツハイマー病、認知症、神経障害、生殖障害、知能の低下、免疫系障害、行動障害、癌、多動、学習障害は、多くの研究が食物との関連性を指摘している病気の一例だ。

 もちろん、以前のタバコやタバコ産業と同じように、明らかに明白な関連性を「証明」しようとすると、欺瞞が「科学」として通用したり、食品生産に関わる企業が政府機関を乗っ取ることによって制度化されたるするため、何十年もかかることになる。

 しかし、そもそもGMOの必要性や、それがもたらすリスク破壊的な影響について問う者は、無知で、恐怖を煽り、虚偽に耽り、人類の進歩の邪魔をする者として描かれるのである。しかし、批判する人々を中傷し、破滅させようとした実績を持つ業界に、より良い期待を抱けるだろうか。巨大アグリテック企業の政治的つながりやその製品の性質に疑問を持つ私たちは、この業界に関わる人間から倫理や「人類の進歩」という高邁な観念のレッスンを受ける気になれるのだろうか?

 これは北米で農作物を汚染し、農家を訴訟でいじめてきた業界である。PCBやダイオキシンで環境を汚染し、健康に深刻なダメージを与えたとして告発され、多くのケースで有罪になった業界である。遺伝子組み換えトウモロコシの動物への致命的な影響を隠すことに加担している業界、賄賂が第二の天性であるかのような業界である(インドネシアのモンサント社)。ブラジルの人権侵害に関連し、米国で食品表示をしない業界である。

 プロGMOロビーが知らしめる偉大な神話は、政府は自由にGMOの採用を決めるというものである。遺伝子組み換えの政治を簡単に分析すれば、これがナンセンスであることがわかる。様々な圧力がかかり、アグリテック企業は政策機関を取り込み、TTIPのような貿易協定とWTOを戦略的に支配している。

 例えば、2005年の米印原子力協定を考えてみよう(インドは核拡散防止条約に署名しておらず、インド議会で現金による票集め戦術を押し通したとされているにもかかわらず、これが核開発を可能にする)。それは、インドの農業および小売業へのアクセスを拡大することを目的とした「農業に関する知識イニシアティブ」に関連付けられていた。この構想は、モンサント、カーギル、ウォルマートなど、さまざまな企業の代表者が全面的かつ直接的に参加して作成されたものである。

 最も強力な国が、あなたの国への市場参入を求めてドアをノックしてきたとき、その企業の先端のジャックブーツが一旦入ったら、それを取り出すことができない可能性が高い。

 そして、それはできないようだ。これまでのところBt綿がインドで許可された唯一のGM作物だが、しかし、これに警告を発する公式報告の圧倒的なコンセンサスにもかかわらず、多くのGM作物の野外試験が現在インド全土で行われている。モンサントのインド国内における戦略的影響力の結果、多くの公的機関や研究機関の活動は今、危険にさらされている(これこれを参照)。

 もし、GMOバイオテクノロジー部門が、公的機関や貿易取引の乗っ取り、あるいは脅迫によって世界的な勝利を得ることができなければ、別の形の汚染政治で事は成し遂げられる可能性がある。

「この業界の希望は、やがて市場が(GMOで)溢れかえり、それについてあなたができることは何もなくなることだ」と、プロマー・インターナショナル社の副社長でバイオテクノロジー業界のコンサルタントであるドン・ウェストフォール氏(Don Westfall)が2001年1月9日付トロント・スター紙に語っている。

 露地植えは、ウエストフォールが言っていることを実現するための一つの方法だ。もちろん、それ以外の方法も数多くある(こちらを参照)。

 強力なアグリビジネス企業が、種子、特許、GMOによって「食物連鎖全体を統合」しようとするとき、そこには国民(どの国でも)の健康だけではなく、食物の世界的な管理であり、ひいては国家の支配がかかっていることは明らかである。

「あなたが見ているのは、種子会社の統合だけではなく、実際に食物連鎖全体の統合だ」―― モンサント社農業部門共同社長ロバート・フレイリー(Robert Fraley)1996年、ファームジャーナル紙、Flint J. (1998) 「農業産業の巨人が遺伝子独占に向かっている」"Agricultural industry giants moving towards genetic monopolism." Telepolis, Heise. 所収。

――著者について
コリン・トッドハンター
イギリスとインドを拠点とする元社会政策研究者であり、独立系ライターとして幅広く活動している。

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